がんや難病などの原因解明や新治療法の開発を目指す「全ゲノム解析」が今年スタートする。国立がん研究センターなど国内の医療研究機関が連携し、10万人規模の患者の全遺伝情報(ゲノム)を網羅的に調べる。一人一人の体質や病状に合わせて治療するがん・難病のゲノム医療が大きく前進すると期待されている。一部は新年の早い時期に始まるという。
参加する医療機関は国立がん研究センターを中心に静岡がんセンター、がん研有明病院、京都大、国立精神・神経医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立病院機構東京医療センターのほか、東京大学、横浜市立大学、名古屋大学、東北大学、慶応大学、大阪大学といった各大学の医学部や付属病院。
厚生労働省は2020年度予算に「全ゲノム解析等による医療推進のための体制整備」に5.8億円を盛り込んだ。同省はこのほか、国立がん研究センターにあるがんゲノム情報管理センターの機能強化を含む「がん対策の推進」として70億円を計上している。
既に多数の患者のゲノムを集めて解析する研究が盛んに行われている。ゲノム医療は、患者の患部の組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う医療だ。既に東京大学や国立国際医療センター、東北大学などが実施している。これまでは解析の対象が一部のがんや難病に限定され、遺伝子の働きが判明している部分が中心だった。全ゲノム解析ではこれまで働きが分かっていない遺伝子部分も含めたゲノム全体を解析の対象にするという。
厚生労働省は「一人ひとりの治療精度を格段に向上させ、治療法のない患者に新たな治療を提供するがん・難病などの医療の発展を図り、個別化医療を推進してがんの克服を目指したがん患者のより良い医療を推進する」ことを全ゲノム解析の目的に掲げている。
今年始まる全ゲノム解析は、参加医療機関を過去の受診した患者が提供後各機関で保存していた検体を使う。がんについては約6万4000人分、難病などは約2万8000人分が解析の対象になる。がんについては5年生存率が低い難治がんや小児がんも含まれる。計画では、難治がんや複数の発病要因がある難病の患者など約2万2000人近くに及ぶ検体を対象にした先行解析を新年の早い時期に始めるという。
こうした全ゲノム解析について厚生労働省は、人材育成を含めた体制整備や倫理的・法的・社会的な課題も検討する。英国では既に10万人のゲノム解析が完了し、2023年までに100万人を対象にした全ゲノム解析計画が進んでいる。大規模な日本人の全ゲノム配列データベースの構築なども予定されており、医療関係者は全ゲノム解析の成果に期待している。
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