2020年、いよいよ日本での5G商用展開が本格的に開始される。産業界からの5Gに対する期待も大きく、その特性から、サービスに活用したい、といった声もでている。しかし、本当に5Gでビジネスは変わるのか?。

こうした疑問に答えるべく、「5Gでビジネスはどう変わるか」という書籍が日経BPより11月に発売された。年の瀬も押し迫った12月23日、この本の著者で、企の代表取締役を務めるクロサカタツヤ氏と、同じく日経BPより10月に「ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略」という書籍を発売したTably 代表取締役 Technology Enablerの及川卓也氏が「5Gでビジネスはどう変わるのか ~事業開発担当・エンジニア向け~」と銘打たれた企主催のイベントで、それぞれの視点から5G技術と、そこから生み出されるソフトウェアやサービスについての考え方を語った。

4Gと5Gはまったくの別の存在?

クロサカ氏は、「この本で一番言いたかったのは、4Gと5Gは全然別物だということ」と、書籍の内容を一言で表現。「5Gは超高速、低遅延などとよく言われるが、その要件を満たす必要があったとして、それを従来よりも高い周波数を使って普及させるために、誰がどういう風に通信を担保して、使ってもらえるサービスにしていくか」という点に可能性があるとした。

また、「5Gはそもそもスマホの利用を意識していないところがある。クルマやセンサの活用を想定している。そうなると、アプリケーションがそもそも違ってくる」とし、そうなると新たな事業機会が創出され、サービスを提供するプレイヤーも変化し、その結果、ユーザーの顔ぶれも変わってくることを指摘した。

また、「次のターニングポイントは2022~2023年ころ」とも指摘している。これは、5Gサービスはローンチ時の4G/LTEのインフラに依存する非スタンドアロン(NSA)から、4G/LTEのコアネットワークに頼らないスタンドアロン(SA)へと変化していく時期と考えられ、「これにより、既存の通信産業が壊れるかもしれない。今のスマホを前提とした産業のあり方前提で5Gを読み解こうと思うと読み間違えるかもしれない」と、大きな変化が訪れる可能性を示唆した。

結局、5Gとは何者なのか?

では、実際にはどのような変化が起こりうるのか。クロサカ氏はこれを「5G指圧論」と表現する。

「浪越徳次郎先生の有名な言葉に通じる。一切意味がわからないと思うが、5Gの本質はデータビジネスなのではないかと思っている」とのことだが、デジタル化が5Gにより進展することで、これまで届かなかったかゆいところに手が届くようになるサービスを活用する社会がくるという意味であり、「指圧でツボをめちゃくちゃに押されると痛いけど、ちょっと上手く押してほぐしてもらうと、幸せな気持ちになれる。重要なのは気持ちよさで、気持ちの良いサービス、自分に便益が返ってくるということはどういうことかを考えてサービスを提供していくのが5Gである」と、気持ちの良いサービスが生み出されていくほど、5Gが浸透していき、それが個人から、家、町、そして都市へと広がりを見せて、やがてスマートシティの実現などに通じていくとした。

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    書籍を書き終えた後に言い始めたという「5G指圧論」。指圧も5Gもユーザー体験としての気持ちよさが重要になってくるという共通項があるという

「現在の通信産業はデータビジネスに対する意識が不足している。既存のインフラ目線だけではサービスをデザインできない時代になる。サービスとして、自分が何をしたいか、それが社会から受け入れられるか、ということが重要になってくる。青臭いかもしれないけど、そういうことも話していかないといけないと思う」(同)。

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    5Gを活用したサービスを生み出すのはあくまで自分たちであるとする

5G時代のビジネスに本当に必要なものとは

及川氏はイベント後半の対談から登壇。対談前の自己紹介では、「ソフトウェアファーストというタイトルに込めた思いがある。ソフトがすべてというわけではないが、ソフトの活用を前提に考えて、仕組みを作らないといけない」と持論を展開。ソフトができること、できないことを理解したうえで、それを自分の武器として活用できるようになる必要があるとした。

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    イベントの後半は及川氏(左)とクロサカ氏(右)の2人による対談形式で進められた

対談自身はさまざまな角度から2人が意見を語るものとなった。例えば、クロサカ氏の著書を参考に、UXデザインの視点で日本企業のプロダクト開発に足りないことについてというテーマに対して、及川氏は「日本は変なところで寛容度が高い。使いづらいものは使いづらいと言わないといけない」と指摘。決してUXは競合に勝つ、競合が居ないから、この程度で良い、といったものではないことを意識しなければ、結局は大きな機会損失につながっていくことを強調した。

また、UXという観点からは、「ユーザー体験を受ける側としては、5Gはどうでも良くて、体験が良い必要がある。5Gで良い体験を、というのは本末転倒で、全体の体験を考えた際に、5Gが必要、という話になれば使えばよい」(同)と指摘。必ずしも5Gを使う、ということにこだわってはいけないとし、「精神論かもしれないが、今、求められているのは成し遂げるということ。調整という言葉がでてくるのは何かが違う。調整と言ってしまうのは、成し遂げようというベースがないからだと思う。他社とのアライアンスを成し遂げるのは調整ではなく説得。こういうサービスを作りたいという軸があったうえで、社内を説得したりとなる。調整は妥協をするもの。調整と言ってしまうようなマインドセットが問題であり、何か大きく変えようというビジョン、ミッションを持つことが重要」と、まずは解決したい課題が何で、その解決のために、何が必要なのかを考えていく必要があるとした。

さらに「目に見えている課題は本当に課題なのか、という見方が重要。課題の解決策は時代によって変わっていく。昔はできなかったけど、今ならどう解決できるか、ということを考えるだけで変わってくると思う」ともし、アライアンス1つとっても、安易に組めるところと組むのではなく、目指すべきものを考え、そのユーザー体験とはどういったもので、そこに対して自分たちが不足しているものは何であり、それを埋めるために必要なものは何かを考えて話を進めていく必要があるとした。

対談最後のテーマは「今後来る5G&AI時代に乗り遅れないために、今からやっておきたい準備とは?」というもの。これに対しクロサカ氏は、「とにかく触ること。何だったらちょっとでも良いから作ってみる」と、何らかの行動を起こすべきであると個人に向けた意見を述べた一方、及川氏は、「組織の中身を変えたい。ソフトウェアの世界にはコンウェイの法則がある。ソフトの設計アーキテクチャは組織構造を反映するというものだが、今の日本の産業構造でいくと、5G時代でもレイヤ構造そのままに、ということになる。これからは越境ということが必要になるので、組織や業界構造そのものを変えられればと思う」と俯瞰的な意見を述べていた。

なお、対談終了後は、即席のサイン会も実施され、クロサカ氏、及川氏ともに、サインペンを片手に多くの書籍購入者の求めに応じてサインを行っていた。

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    対談後、書籍の即売会も実施。購入者には直筆サインが施された書籍が手渡されていた