「破壊的イノベーション」を国主導で生み出すために野心的な目標を掲げる「ムーンショット型研究開発制度」に関する国際シンポジウムが17、18日の両日、東京都内で開かれた。この制度は政府が5年で1000億円を投じるこれまでにない規模の研究開発制度。シンポジウムでは2018年に創設されたこの制度の狙いや目指す具体的な研究テーマの紹介などがあった。17日の基調講演ではソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が登壇し、人工知能(AI)教育の重要性などを強調しながら「日本はアジアの中でナンバーワンのAIプラットフオームづくりを目標にすべき」などと語った。

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    ムーンショット国際シンポジウムで講演する孫正義氏

シンポジウムは政府のほか、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が共催して開かれた。ムーンショット型研究開発制度は、実現すれば世界的なインパクトが期待される野心的な目標(ムーンショット目標)を掲げて世界中の研究者の英知を結集、困難な社会課題の解決を目指す初の挑戦的な研究開発制度として2018年に創設された。ムーンショットとは、人類を月に送った米国のアポロ計画のような大胆な発想に基づく研究開発をイメージしている。

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    ムーンショット型研究開発制度の狙いなどを説明する総合科学技術・イノベーション会議の元有識者議員で農業・食品産業技術総合研究機構理事長の久間和生氏

孫氏は、17日午前に日本のムーンショット研究はどこを目指すべきかについて基調講演。1990年代半ば以降日本は、米国などで進んだ工業生産から情報産業への大胆な転換の流れに大きく遅れ、既に中国にも引き離されている実態を指摘した。そして米中間でAIを巡る競争が激化している中で日本が今後選択すべき道として、今後一層AIの研究や技術開発に力を入れ、「アジアでナンバーワンのAIプラットフォームをつくることを目標にすべきだ」などと述べた。日本だけでなくインドも含めたアジアを市場にしたAIプラットフォームをつくることができれば、その市場規模は米中をしのぐという。

そしてAI教育の重要性を指摘しながら、大学入試の試験科目にAIを入れれば学生が意識して勉強し、AI研究ではるかに先行する米国や中国にも負けないAI人材の育成につながると強調した。国内の人材育成とともに世界のトップクラスの研究者を米国や中国などから呼び、予算をかけて独自のAIビジネスモデルをつくることを考えるべきだ、などと述べた。

孫氏はまた、ムーンショット型研究で狙う重要テーマとして、日本が確実に迎える高齢化社会を前提にAIを活用した高度な自動運転やゲノム・DNA情報を生かした先端医療を挙げている。いずれも日本独自の成果が期待できるという。

2日目の18日は、汎用型量子コンピューターネットワークの実現や、AIとロボットの「共進化」など、ムーンショット型研究の対象テーマとして有力視されている6テーマなどを取り上げた7つの分科会が開かれた。そこではそれぞれのテーマの狙いや課題などについて突っ込んだ議論が展開された。

研究の対象となるテーマは7月に25の候補が決まり、その後絞り込みの作業が行われている。今回の国際シンポジウムでの議論も踏まえて年明けの総合科学技術・イノベーション会議でテーマが正式に決まるという。

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    シンポジウムの閉幕に際し、ムーンショット型研究開発を進めるためには人間の幸福を第一に情熱と熱意が大切だ、などと強調したJST理事長の濵口道成氏(右奥)ら

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