産業技術総合研究所(産総研、中鉢良治理事長)が福祉用具・介護用品の総合メーカーと共同で転倒を防止する機能を持つロボット歩行車の試作機をこのほど開発した。今後も実証実験を続けて2021年2月までに実用化を目指すという。歩行車はリハビリ施設や高齢者が街中を歩行する場面でよく見かけるが、高齢者が転倒すると骨折して寝たきりになるケースも多い。実用化すれば、転倒しにくく安全に移動できて高齢者らが安心して使える新しいタイプの歩行車が誕生すると期待されている。

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    (左図)転倒防止ロボット歩行車試作機 (右図)使用時のイメージ

これまでの歩行車は利用者の転倒を防止する機能を備えておらず、利用者が歩行車から手を離して転倒したり、歩行車ごと転倒するリスクがあった。高齢者が転倒して骨折すると回復まで時間がかかってその間筋力が低下してそのまま要介護者になる場合も少なくない。また、介護施設などでは転倒リスクを減らすために要介護者が移動する際は車いすを用いることが多い。車いすの多用により要介護度が重度化する「作られた寝たきり」が増える傾向にあることが問題となっていた。産総研によると、2003年に370万人だった要介護者数は、2017年には630万人に増加している。

産総研と共同で開発したのは福祉用具・介護用品の総合メーカーの幸和製作所(大阪府堺市、玉田秀明社長)。両者はそれぞれの得意分野で協力して転倒防止機能を備えたロボット歩行車の開発を目指した。産総研のロボットイノベーション研究センターは人体や歩行車の動作モデルに基づいた転倒動作シミュレーション技術と、高齢者の代わりとなる人形「人型ダミー」を考案。幸和製作所と共同で転倒防止機能を持つロボット歩行車の開発を進めた。

産総研と幸和製作所は(1)利用者が歩行車ごと転倒しない安定性と利用者が要介護高齢者でも使える操作性を両立する(2)トイレなどの狭い場所でも利用可能なこと(3)転倒リスクは車椅子で移動する場合と同等以下(4)歩行中は介助なしで利用できること―などを設計基準に設定。転倒動作シミュレーションに基づいて設計し、利用者の転倒につながるさまざまな動きを人型ダミーにさせる実験などを繰り返して転倒をしっかり防止できるロボット歩行車の試作機を完成させたという。

試作機はバッテリーを搭載し、幅、奥行き約60センチ、高さ約80~約100センチ。移動用車輪は左右3つずつ計6つ。歩行がたどたどしい利用者の左右の足のそばに車輪を配置し、転倒につながるわずかな力に応じて駆動輪が回転する。例えば利用者がバランスを崩して後方に倒れそうになると歩行車がすぐに後方に動いて転倒を防ぐ。転倒を防止する機構の開発は幸和製作所が担当。人型ダミーの位置や姿勢を変更するなどさまざまな条件での転倒実験でも人型ダミーが歩行車から落下する場合は一度もなかったという。

産総研などの開発グループは、今回開発した歩行車の利用により、転倒リスクがある要介護者が安全に歩くことが可能となり、要介護度の重度化を予防する自立支援介護や総介護費用増加の抑制が期待される、としている。

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