Armは、12月6日に都内で開催した年次イベント「Arm Tech Symposia 2019 Japan」に併せて、自動車関連分野に対するメディア向け説明会を開催。CPUのみならず、GPUやNPUに関しても自動車対応を図っていくことを明らかにした。
Armの車載戦略の肝は「Cortex-R」
Armは車載用途に向けたIP製品に「Automotive Enhanced(AE)」という名称をつけて提供を進めてきた。現在、そのほとんどがCPU製品だが、今後はGPUやISP、バス周り、インターコネクトなどもAE版の提供を行っていく計画だという。例えばCPUでは、Cortex-Aシリーズとして、スピリットロックモードとデュアルコアロックステップ(DCLS:Dual Core Lock-Step)モードの2モードに対応したCortex-A76AEならびにCortex-A65AEが提供されているが、その後継となる「Hercules-AE」が2020年に投入される予定となっている。ちなみに、Cortex-A76AEとCortex-A65AEは、OEM(自動車メーカー)から直接、ポジティブなフィードバックを得ているということで、次世代車への搭載はほぼ決定と同社では見ているとする。
また、同社が機能安全プロセッサと銘打った「Cortex-R52」は、リリースが2016年だが、ここに来て、さまざまな半導体メーカーから搭載製品が提供され始めてきたとしており、「時期は言えないが、Cortex-R52の後継品の開発も進めている。2020年以降、詳細な内容を語れる時期がくれば、ロードマップとして公開される予定」(Arm本社のADAS/自動運転プラットフォーム 戦略担当ディレクターで、AVCCのボードメンバーでもある新井相俊氏)と、注目を集めていることを強調する。
実はCortex-Rは、その用途的に同社の自動車向けIP戦略の中でも重要な位置を占めるという。というのも、もともとCortex-Rはリアルタイム性を売りにしていたが、マイコン用途で考えた場合、Cortex-Mでも十分に速い応答性を提供できるようになってきており、そこでの差異化はそれほどなくなってきたのだが、ここでCortex-R52が有するDCLSをはじめとする機能安全を実現するための各種機能が意味を持ち始めてくる。
「最終的に機能安全を担保する最後の砦であるセーフティアイランドの役割をCortex-R52が築きつつある」(同)。つまり、車両に何らかのエラーが生じた場合、その問題がハード起因でもソフト起因でも、最低限、安全に走行する、という行為そのものは確保されなければならない。そのクリティカルなレイヤの処理を担うのが「セーフティアイランド」であり、高い安全性とリアルタイム処理が可能なCortex-Rシリーズが最適だということとなる。
さらに、Cortex-Mシリーズも最新世代となるArmv8.1-MアーキテクチャでFP16がサポートされたほか、DSP機能が強化。「自動車内部には8ビット、16ビットのマイコンがまだまだ使われている。その切り替えとして、機械学習に対応した小型のCortex-Mマイコンがあることは、切り替えに向けた大きなモチベーションになると思っている」(同)と、従来の8/16ビットマイコンの置き換えを狙う製品と位置づけているとする。
GPUのAE版でインパネが進化
ArmはGPUやDPU(Display Processor Unit)として「Maliシリーズ」を提供しているが、現行製品はAE版ではない。そのため、Samsung ElectronicsがAudi向けSoCにMali-GPUが搭載されるといった話もでているが、基本的にはナビゲーションでの用途となるという。ただし、将来的にはAE版の提供を計画しているとのことで、これにより「ミッションクリティカルなメーター類(インスツルメントパネル:インパネ)の表示なども対応することができるようになる」(同)とのことで、デジタルディスプレイのさらなる活用が進むことになるという。
また、MaliはGPUやDPUのみならずISP(Image Signal Processor)「Mali-C71」も提供されており、こちらはすでに量産車でも活用されており、機能安全にも対応していることから、今後、さらに採用数が増加するものと同社では見ている。
このほか、同社の各プロセッサやMaliシリーズなどを接続するCorelinkインターコネクトやフィジカルIPなど各種の「システムIP」もAEにほとんどのものがAE対応済みとなっている。そのため、同社では「これらのシステムIPを活用して開発してもらえれば、ASIL-BやASIL-Dに対応する製品開発が可能になる」としている。
エコシステムを重要視するArm
Armは自動運転の実現に向け、自社に不足している部分の補間を目的に、パートナーシップとエコシステムの構築の2方向での拡充を進めている。
その最たる例がAVCCだろうが、そのほかにも、GNSSソフトウェアの開発を行っている米国のスタートアップSwiftとGNSSチップへのArmコアの搭載、ならびにレベル3/4の自動運転車の開発企業との距離短縮を目指していたり、航空業界での長年のノウハウを有するCoreAVIとGPUの機能安全関連で協業を進めることなども明らかにしている。
AVCCは、自動運転の実現に向けてシステムレベルで競争領域と非競争領域を切り分けて、非競争領域については、共通的なプラットフォームを提案し、OEMやティア1は競争領域で、自社の価値を高めていこう、という取り組み。10社でスタートしたが、基本的にはオープンな組織であり、新たに参加したいという企業には、AVCCとして求める取り組みができることを前提に参加が承認されるというもので、「近々、新しいメンバーの発表ができると思っている」と、すでに水面下では新規メンバーの加入に向けた動きが進んでいることを明らかにした。
ただし、AVCCの取り組みについては、「すぐに決まるものではない」とのことで、時間軸としては、2025年の自動車にAVCCから出された推奨条件が反映されることを期待するとしている。「2020年以降、進捗の公開を行っていく予定だが、非競争領域が共通化できれば、コストダウンが図れることになるので、AVCCとしてみんなで使えるものを規定することを目指していく」としており、着実に一歩ずつ、前進していくことが重要だとした。
なお、Armとしては「エコシステムの構築は、あくまでArmの仲間を作っているのではなく、業界で抱える問題をArmとして解決することを目指して進めている。それにより、使い勝手も向上していくことになるし、開発速度も向上していくことになる。まだまだArmとしての努力が足りていないと思うが、今後も全力でカスタマのサポートの充実に向け、エコシステムの拡充などを図っていく」とのことであった。