腎細胞がんの細胞に特異的に発現して転移にも関わるタンパク質を見つけた、と千葉大学の研究グループがこのほど英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した。このタンパク質が腎細胞がんの初の腫瘍マーカーや抗がん剤に使えると期待されている。
千葉大学大学院医学研究院の安西尚彦教授と市川智彦教授らの研究グループが着目したのは「アミノ酸トランスポーターLAT1」と呼ばれる膜タンパク質。膜タンパク質は細胞や細胞小器官などの生体膜に付いているタンパク質分子で、ヒトの細胞内でアミノ酸を運ぶ役割をしている。
研究グループは腎細胞がんの手術を受けた患者のがん組織と正常組織をそれぞれLAT1に反応する抗体で染色した。するとがん組織にはLAT1が多く発現しており、がん組織でのLAT1の発現が多いほど転移や再発が多いことが分かったという。
研究グループは既に製薬会社のジェイファーマと共同でLAT1の働きを抑える阻害剤(JPH203)を開発していた。今回その阻害剤を腎細胞がんの細胞に投与する実験をした結果、がん細胞の増殖が抑制されることが明らかになったという。
これまで腎細胞がんの腫瘍マーカーはなかった。研究グループは今回の研究成果からLAT1が腎細胞がんの初の腫瘍マーカーとして活用できる可能性があるほか、LAT1阻害剤のJPH203が抗がん剤として使える可能性もあるとしている。今後、臨床試験を計画するなどして腎細胞がんを対象とした腫瘍マーカーや抗がん剤の実用化に向けた研究を進めるという。
腎臓のがんには腎細胞がんと腎盂(じんう)がんとがあり、腎臓がん患者数は約30年にわたって増加傾向にある。患者の男女比は約2対1で、男女とも50歳代から増えており、社会の高齢化とともに今後も患者が増えるとみられている。
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