東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)の期間中、宇宙から応援メッセージを送るというガンプラ衛星「G-SATELLITE」が12月3日、プレス向けに公開された。この衛星には、ガンダムとシャアザクの2体のガンプラを搭載。アムロとシャアの音声データも格納されており、ついにあの2人の会話が宇宙で実現するかも?
"母船"G-SATELLITEの性能をチェック!
G-SATELLITEは、大きさ10cm×10cm×34cm、重さ2.9kgの超小型衛星。2018年に打ち上げた「たすき」(TRICOM-1R)がベースになっており、東京大学 中須賀・船瀬研究室が開発を担当した。搭載する2体のガンプラは、宇宙仕様のものをバンダイが特別開発。このガンプラについてはすでにレポートがあるので、詳しくはそちらを参照して欲しい。
なお以前、公開されたガンプラは実際に宇宙に行くフライトモデルだったが、今回公開された衛星はエンジニアリングモデルで、別物だという。フライトモデルはこの後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡され、2020年3月、米SpaceXの補給船で打ち上げを実施、同4月に国際宇宙ステーションより放出される予定だ。
ガンプラとカメラは衛星内に格納しておき、宇宙空間に放出されてからパネルを展開する構造。パネルのヒンジにはバネを使用。パネルを留めているテグスがニクロム線の発熱で切れると、バネの力で開く仕組みだ。ニクロム線に電気が流れさえすれば確実に展開できるので、信頼性が高い。超小型衛星の展開部では実績のある方式だ。
撮影用には、7台ものカメラを搭載するという。ガンプラ正面の4台のほか、背面側にも配置。また内部にも1台を用意して、展開前の様子を確認することができる。そのほか、別途地球撮影用のカメラも搭載している。
ガンプラの土台には、電光掲示板を搭載。日本語、英語、フランス語の3カ国語に対応し、メッセージを表示できる。大会中は、日本人選手がメダルを獲得したときや、各国の選手が世界記録を出したときなどに、祝福のメッセージを表示することを考えているという。
また、ガンプラの首が動く機能については、すでにJAXAの野口聡一宇宙飛行士の"暴走"によって明らかになってしまっていたが、これも正式に発表された。直径6mmという小型の真空対応モーターを内蔵しており、可動範囲は±30°程度。向き合って友愛を演出したり、正面を向いて応援したりと、様々な表現に活用する。
富野総監督が語る、ガンプラの宇宙に行く意味
会見には、富野由悠季・ガンダム総監督も駆けつけ、挨拶を行った。富野氏がまず強調したのは、このプロジェクトの意義だ。「ガンプラファンはもしかすると、こんな小さなガンプラを放出して"なんだこりゃ"と思うかもしれない。しかし、本物の宇宙にガンプラを持って行くことには、大きな意味がある」と述べる。
「宇宙では、材料、塗料、形状などクリアすべき問題が多い。ガンプラを本物の宇宙環境に曝したとき、どう劣化するのか、それともしないのか。その実証実験は、こういう機会が無ければ絶対にできなかった」と、"実験"としての見方を示し、東京2020組織委員会、JAXA、宇宙飛行士など、関係者の協力に感謝した。
前述の通り、G-SATELLITEからは東京2020の期間中に応援メッセージが届けられるが、それに先立ち、放出直後の2020年春には、宇宙から"ファーストメッセージ"が発信される計画だという。
このメッセージは、富野氏が書き下ろしたもの。アムロとシャアの会話になっており、地上で収録した音声データは、衛星内部のメモリに保存されている。しかし真空の宇宙空間でスピーカを振動させても音は発生しないため、衛星からの通信でデータを送信、地上で受信する形になるそうだ。
気になるのは2人の会話の内容だが、富野氏は「ここでは言えないが、笑っちゃいますよ」とコメント。しかし「基本的にあの2人は戦闘中という想定があるので、そこから抜け出してきたという会話をする」と続けだしたので、東京2020組織委員会の天野春果・企画担当部長が慌てて「あまりバラさないで」とストップをかける場面も。
そのほか、G-SATELLITEの飛行場所が分かるWebコンテンツ「3D地球儀」を用意。さらに、「アムロとシャアの宇宙での会話を傍受する」というイメージの企画も計画されており、衛星が日本上空に来たタイミングで、YouTubeでライブ配信を行うという。
プロジェクトは、東京2020の閉幕に合わせ、2020年9月6日に終了。衛星は宇宙に放出後、大気抵抗により高度を徐々に下げ、1~2年で地球大気圏に再突入するため、デブリになる心配はない。なお再突入の高熱に耐える装備は持っていないので、ガンダムといえども今回は燃え尽きてしまう予定だ。