富士通は、2019年12月2日、次世代スーパーコンピュータ「富岳」の出荷セレモニーを、石川県かほく市の富士通ITプロダクツで行った。

  • スーパーコンピュータ「富岳」

  • 手前が輸送用に梱包された富岳

午後2時から行われたセレモニーには、富士通の時田隆仁社長や石川県の谷本正憲知事、文部科学省 研究振興局参事官の橋爪淳氏、理化学研究所 計算科学研究センターの松尾浩道副センター長、理化学研究所 計算科学研究センタープロジェクトリーダーの石川裕氏など、関係者約80人が出席した。

  • 石川県かほく市の富士通ITプロダクツ

第一号筐体を乗せたトラックが出荷する様子

富士通の時田隆仁社長は、「富岳が今日から出荷され、神戸市の理化学研究所に納品される。京に勝るとも劣らない貢献をすると期待している。スーパーコンピュータは、これまでにも様々な社会課題にチャレンジしてきたが、富岳は、防災や医療、創薬に加えて、産業利用にも貢献できるだろう。そして、富岳のアーキテクチャーを採用したスーパーコンピュータを、日本のみならず、グローバルにも販売し、さらに米クレイ社とも提携することも発表した。世界中の社会課題の解決に貢献できる。そして、Green500では、富岳のプロトタイプが世界一となった。これも富岳の高いポテンシャルを示すものである。この地にて、富岳をきちっと製造し、メンテナンスし、多くの人たちの期待に応え、価値ある成果を届けたい。これが富岳の使命であり、富士通の使命である」と挨拶した。

  • 富士通の時田隆仁社長

富岳は、スーパーコンピュータ「京」の後継機として、富士通と理化学研究所が共同で開発。2021年~2022年頃の共用開始を目指している。

ものづくり、ゲノム医療、創薬、災害予測、気象・環境、新エネルギー、エネルギーの創出・貯蔵、宇宙科学、新素材の9つの分野を重点領域として研究開発に使用されるほか、京が得意としたシミュレーションだけでなく、AI分野での利用も想定されている。

CPUには、A64FXを採用。armのv8-A命令セットアーキテクチャーをスーパーコンピュータ向けに拡張した「SVE」を使用しており、CPUピーク性能は京の24倍となる3TFLOPS、メモリバンド幅は京の16倍となる1024GB/sを実現する。

「富岳は、スーパーコンピュータの性能競争のために開発したわけではない。科学技術の探求だけでなく、産業界をはじめとして実用的に役立つ汎用性の高いスーパーコンピュータを目指して開発した。科学的、社会的に役に立つことを目指している。省電力、アプリケーション性能、使い勝手の良さに重視して開発したものになる」(富士通の新庄直樹理事)としている。

なお、富岳のプロトタイプが、スーパーコンピュータの消費電力性能を示すランキングであるGreen500において、世界1位を獲得している。

富士通ITプロダクツでは、月間60ラック以上を生産し、最終的には約400ラックを生産。2020年6月までに全量を出荷し、2020年12月までの期間をかけて、富岳を設置した神戸市の理化学研究所で評価試験を行うことになる。

出荷セレモニーでは、4人の来賓が挨拶した。

文部科学省 研究振興局参事官の橋爪淳氏は、「富岳は世界最高水準の汎用性と、京の100倍のアプリケーション実行性能を備え、クラウド技術の発展や産業競争力の強化に貢献することができる。富岳の出荷開始は、富岳の運用に向けた大きな一歩である。まずは早期運用を目指す。また、Green500において、世界1位を獲得したことは富岳が目指す世界最高水準の省エネ性能が評価されたものであり、心強く思う」などとコメントした。

  • 文部科学省 研究振興局参事官の橋爪淳氏

理化学研究所 計算科学研究センター 松尾浩道副センター長は、「待ちに待った富岳の出荷が始まる。私は明日、神戸市の計算科学研究センターで、これを責任を持って受け取る。石川県かほく市で作り、兵庫県神戸市で組み立て、完成させるなかで、富士通と理化学研究所は協力をして、AI連携機能を強化するなど、サイエンスだけでなく、イノベーションを起こし、Society 5.0を支える基盤として世界からも注目を集める存在になるように注力してきた。また、2020年1月には、金沢市で、『富岳を知る集い』を開催する。こうした活動を通じて、石川県の中高生にもスーパーコンピュータに関心を持ってもらい、将来は富士通に入社したり、理研の研究者になってもらいたい。今後は、世界をびっくりさせるような成果を次々と生み出すような人材育成にも力を入れたい」とした。

  • 理化学研究所 計算科学研究センター 松尾浩道副センター長

また、理化学研究所 計算科学研究センタープロジェクトリーダーの石川裕氏は、「富岳のプロジェクトは、2014年春からスタートした。今日は、まずは6筐体が出荷される。富岳10筐体で今まで稼働していたスパコン京全体864筐体と同じ性能が出る。また、20分の1の電力で稼働する。コンパクトで高い性能を発揮するスーパーコンピュータである。大規模なシミュレーションだけでなく、AIでも活用が可能な点も特徴である」などした。

  • 理化学研究所 計算科学研究センタープロジェクトリーダーの石川裕氏

石川県の谷本正憲知事は、「世界に冠たるスーパーコンピュータの富岳が今日から出荷する。今日は雨が降っているが、雨降って、地固まるという言葉があるように、むしろ雨が降ってよかった。恵まれた日になった。また、私は兵庫県で出身で、石川県の知事をしている。プロジェクトリーダは石川さん。富岳とこれだけ重なることを考えると、石川県で作られたことは偶然ではない。運命のようなものである」と語り会場を沸かせたあと、「富岳によって、ガンや認知症の治療に生かしたり、台風の進路を予測し、防災にも活用できると聞いている。大いに活用してもらい、県民や国民の安全につながることを期待している。こうしたコンピュータがこの地で作られていることは、石川県の誇りでもある」などと述べた。

  • 石川県の谷本正憲知事

一方で、富士通ITプロダクツの加藤真一社長は、「富士通ITプロダクツは、試作段階からこのプロジェクトに携わり、技術力を結集し、効率的で、高信頼を担保したモノづくりに取り組んでいる。とくに、品質については、『品質は命』という、当社が掲げる言葉通りにこだわってきた。その実現に向けてはサプライヤーの協力を得た。富岳の製造を通じて社会課題解決の一翼を担うという誇りを胸に、高品質の製品づくりに邁進し、すべての製品をしっかりと収める」と述べた。

  • 富士通ITプロダクツの加藤真一社長

セレモニーでは、代表者によるテープカットが行われたあと、トラックの乗せられた第1号筐体が、神戸市の理化学研究所計算科学研究センターに向けて出発した。

なお、理化学研究所計算科学研究センターでは、12月3日午前9時から、富岳の搬入を開始する。