汎用=万能ではないオペアンプ

ON Semiconductorの「LM321」などに代表される汎用オペアンプを電流検出アプリケーションに使用するユーザをよく見かけます。この製品は何十年もの歴史があるオペアンプのひとつです。このような従来型のオペアンプは安価なので、膨大な数のアプリケーションに使用されています。しかし、ユーザから電流検出回路でオペアンプが正しく動作しないといわれることがあります。返品されたオペアンプを調べると、問題なく動作しています。何が悪かったのでしょうか?

オペアンプが「汎用」であるからといって「万能」であるわけではありません。電流検出アプリケーションには高精度が必要です。電流検出は通常、パワーマネジメントや過電流保護のアプリケーションで使用されます。十分な精度が得られないとどうなるでしょうか。電話のバッテリが実際に切れかけているのに、残量表示は8%を示しているかも知れません。過電流保護回路を100Aで始動するように設計していても150Aまで作動しなかったら、下流デバイスがすべて損傷を受けることもあり得ます。これが汎用オペアンプと高精度オペアンプの違いです。

高精度オペアンプは入力オフセットがすべてです。CMRRとPSRRの仕様も優れていますが、これらのパラメータは両方とも同相電圧または電源電圧に応じて変化する入力オフセット電圧として表すことができます。入力オフセット電圧とは何でしょうか? それはどのオペアンプにも存在する入力における固有のオフセットで、製造工程に起因する入力トランジスタペアのわずかな不整合によって発生します。学校では理想的なオペアンプの入力オフセット電圧はゼロとして学びますが、実際に使用するオペアンプでは理想値にならないことは周知のことです。

LM321などの従来型の汎用オペアンプでの入力オフセット電圧はVOS=±7mV maxで、「NCS20071」などの最新オペアンプではVOS=±3.5mV maxです。この最大規格値はゼロ付近に中心がある分布に基づきます。これはほとんどの時間、ランダムに選択した製品がほぼゼロのオフセットを示すことを意味しています。

なぜ量産になると不具合が発生するのか

汎用製品のLM321を用いた試作回路では完璧に動作していると思っても、量産に入ると、かなりの割合で不具合が発生する場合があります。これは製造工程が原因で製品ごとにばらつきが生じ、限界値付近の製品も存在する可能性があるためです。したがって、常に最大入力オフセット電圧を考慮して回路を設計する必要があります。ときどき入力オフセット電圧、CMRR、抵抗網の許容差、温度の影響などについて、回路でワーストケースの限界値を確認することを忘れているユーザがいます。

汎用オペアンプLM321とNCS20071を、チョッパ安定化アーキテクチャによりVOS=±25μVの最大オフセットを備えた高精度オペアンプ「NCS21911」と比較してみましょう。オフセット電圧にはどの程度の違いがあるでしょうか? 図1に示すように、シャント抵抗での電圧降下を50mVに固定した場合を検討してみましょう。

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    図1 入力オフセット電圧とそれにより生じる出力オフセット誤差の比較。入力オフセットが7mVと3.5mVのアンプでは顕著な出力オフセット誤差が発生

図2で、VOS=7mVの場合の例をより詳細に調べることができます。

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    図2 ローサイド電流検出と入力オフセット電圧の出力誤差への寄与

NCS21911などの高精度オペアンプを選択すると、この回路例では入力オフセット電圧の誤差への寄与がほぼ無視できるようになります。出力精度が向上するだけでなく、検出抵抗の値を低減しながら所要精度を維持する余裕があります。

図3に示すように、オフセット電圧が低いので、同じ精度を維持しながら検出抵抗の値を低減できるため、大幅に効率を向上させることができます。検出抵抗の値を低減すると何が起こるでしょうか? 検出抵抗で消費される電力が減少するので、ワット数の低い低価格の抵抗を使用でき、物理的に小形の検出抵抗を使用できるため、抵抗が占めるプリント基板上のスペースを削減できることになります。システム全体の効率が向上し、むだな消費電力が減少します。

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    図3 入力オフセット電圧と、精度要件を固定した結果生じるシャント抵抗での電圧降下。シャント抵抗での電圧降下が減少し効率が向上

汎用オペアンプで適正に動作するアプリとは?

多くのアプリケーションでは、検出抵抗を流れる負荷電流は変えることができます。電流を0Aの近傍で測定しようとする場合、誤差が顕著に増加することがわかるでしょう。これは正常であり、予想されたことです。電流がゼロまで減少すると、誤差の割合が無限大に近づきます。この電流検出回路は、電流を測定するように設計されており、電流が流れていない場合に正確な測定をするようには設計されていません。

図4は、電流の増加にともない精度が向上する様子を示しています。入力オフセット電圧により誤差がどのように変化するかに注意してください。オフセットが25μVのNCS21911では、検出電圧が低下しても比較的高精度の測定ができます。

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    図4 入力オフセット電圧による誤差

効率と精度のわずかな改善でも、結果的に材料費、プリント基板のコスト、および電気代の節約につながる可能性があります。安価なオペアンプを選択すると先に支払う金額は節約できますが、適正な価格の高精度オペアンプを使用すれば、システムレベルでコスト削減が可能であり、最終的には有利になることを考慮してください。

汎用オペアンプで適正に動作するアプリケーションも多数あります。従来型のLM321でさえ、適切に回路を設計すれば、電流検出アプリケーションで正常に機能します。この場合、出力誤差が比較的高くなると予想しておいたほうがよいでしょう。あるいは、電圧降下が入力オフセット電圧よりも十分高くなるように検出抵抗の値を決める必要があります。

ローサイド電流検出の場合、高精度オペアンプに切り替えると、精度とシステムの効率が向上します。高精度オペアンプNCS21911は標準ピン配列を備えているため、LM321やNCS20071などの汎用オペアンプと単純に置き換えることができます。