富士通研究所と愛知県がんセンターは11月29日、AI技術を活用することで、がんゲノム情報解析を効率化し、がんゲノム医療の普及に貢献することを目的に、包括的な共同研究契約を締結したと発表した。

共同研究では、富士通研究所がこれまで培ってきたゲノム医療におけるAI技術と愛知県がんセンターのがんゲノム医療の研究や臨床から得た知見や課題、および同センターが保有する大規模なゲノムデータ・診療データを活用し、がんゲノム医療に資する各種のAI技術を開発する。

がんゲノム医療では、がん患者の遺伝子変異を明らかにすることで、病気のなりやすさ、薬の反応性や副作用などを予測して、患者ごとに最適な医療を提供することを目的としている。日本においては、今年6月からがん遺伝子パネル検査が健康保険適用になったため、今後さらにがんゲノム医療の対象となる患者が増加していくことが予想され、がんゲノム医療の現場においてより正確かつ迅速な病気の診断や治療法の選択をアシストする技術の開発が求められている。

富士通研究所は、富士通が日本医療研究開発機構(AMED)「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」の「ゲノム医療を促進する臨床ゲノム情報知識基盤の構築」に参画・開発してきたデータベースを活用し、東京大学医科学研究所(医科研)との共同研究において、急性骨髄性白血病の治療方針の検討作業を効率化、高精度化するAI技術を開発してきた。今後、対象とするがん種を複雑なゲノム変化をもつ固形がんにまで拡げ、患者個別のがん診療を広く可能にしていくためには、より大規模なゲノムデータ・診療データを活用した検証が必要になっているという。

がんゲノム医療拠点病院として、厚生労働大臣から指定を受けている愛知県がんセンターは、今年3月に設立したがんゲノム医療センターにおいて、がん患者のがん遺伝子パネル検査の結果をその後の診療につなげていく体制を整えるとともに、愛知県がんセンターと連携する東海地域の病院へ高度ながんゲノム医療を広く展開していくことを目指している。

がん遺伝子パネル検査結果の解釈は、ゲノム医療の専門医らで構成するエキスパートパネルが行っていますが、各症例に対し適切な治療方針を立てるためには多くの労力が必要であり、遺伝子検査の件数が増加していく中で、各医師の負担が増大していることが問題となっている。そのため、がん遺伝子パネル検査により同定された遺伝子異常の意義づけや、検査結果と診療データを統合した新規治療法推定などのがんゲノム医療を支援する技術の開発は喫緊の課題だという。

そこで、両者は富士通研究所が医科研との共同研究において開発したがんゲノム医療を効率化するAI技術と、愛知県がんセンターが所有する主に固形がんのゲノムデータ・診療データを用いて、ゲノム医療の臨床でボトルネックとなっているがん遺伝子パネル検査結果の解釈を効率化する技術を確立し、患者の遺伝子変異と病気との関係性を明確化する機能の高度化を図る。これにより、対象とするがん領域を拡大し、患者ごとに最適ながんゲノム医療の実現を目指す。

富士通研究所は、AI技術を用いた疾患領域ごとの臨床情報やゲノム情報のデータベース構築・統合に必要となる要素技術の開発、がんゲノム医療における診断・治療法選択、および、新規治療法などの知識発見を支援する新たなAI技術の開発を行う。

一方、愛知県がんセンターは個人情報保護に配慮した、患者ごとのがん遺伝子パネル結果および診療データの提供、固形がんを含む様々ながん症例に関する遺伝子検査結果の解釈、検討方法、治療選択ノウハウの提供、開発したAI技術の検証を担う。

今後、両者は共同研究の成果を開発済みのがんゲノム医療AI技術とともに、がんゲノム医療を支援する機能群として集約し、愛知県がんセンターと連携する東海地域の病院に展開する。また、各医療機関の患者から取得したさまざまな症例のがんゲノムデータを共通の参照データベースに登録し、継続的にデータベースを増強していくことで、網羅的で信頼性の高い治療法の選択が可能な統合機能へと発展させていく考えだ.