日本IBMは11月27日、都内で「IBM Cloud Paks」に関する戦略説明会を開催した。説明会では同社のクラウド戦略とレッドハットとのシナジーに関する戦略が語られた。
クラウド戦略で重要な「IBM Cloud Paks」
冒頭、日本IBM 取締役専務執行役 事業開発担当兼ハイブリッド・クラウド・リードの三澤智光氏は「デジタル時代のITの役割は変化してきており、従来のITの役割は財務会計や販売管理、人事給与、生産管理など、ビジネスを支えるためのものだった。しかし、デジタル時代ではテクノロジーそのものでビジネスを構築することが重要になっている」との認識を示す。
そして、デジタル化の時代においては、よりよい製品・サービスのためにソフトウェアの重要性が増しており、その中でも優れたソフトウェアはオープンソースからしか生まれていないと同氏は続ける。
しかし、オープンソースを一般企業が使うのは容易ではなく、IBMとレッドハットではオープンソースの優れたソフトウェアコードを使いやすく提供することに加え、次世代コンピューティングの主流と目されるコンテナ技術を活用したオープンなハイブリッド/マルチクラウドプラットフォームを提供することで、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していくという。
今後、両社における戦略に関して三澤氏は「基本的にレッドハットの戦略に変わりはない。これは、レッドハットにとってIBMは重要なパートナーではあるが、AWSやAzure、デル、HPEなどと同様に重要なパートナーの“一部”だと考えているからだ。そのような中でレッドハットが推進するのがKubernetesコンテナプラットフォームの『Red Hat OpenShift』であり、顧客にハイブリッド/マルチクラウド環境を提供する。一方で、IBMはパブリック/プライベートクラウドのエンジンとしてOpenShiftを標準採用し、クラウドネイティブの環境においてハイブリッドなデザインができるようにしていくことが戦略だ」と強調する。
ただ、OpenShiftのように優れたクラウドネイティブのエンジンがあればいいわけではなく、その上に数多くのサービスも必要となるため、OpenShiftや統合済みのコンテナ化したソフトウェアとして提供する「IBM Cloud Paks」の意義は大きく、同氏は「既存ワークロードのモダナイゼーションの支援が必要不可欠となることから、戦略の1つとして重要視しているのがCloud Paksとなる」と述べた。
また、日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長の伊藤昇氏は「ITモダナイゼーションのためのクラウドネイティブソフトウェアだ。OpenShiftをベースにした運用サービス&コンテナプラットフォーム上にコンテナ化されたIBMのソフトウェア群を100以上実装し、商品化した」と説明する。
現在、IBM Cloud Paksは「Cloud Pak for Data」「Cloud Pak for Applications」「Cloud Pak for Integration」「Cloud Pak for Automation」「Cloud Pak for Multicloud Management」の5製品に加え、先日発表された「Cloud Pak for Security」を合わせて計6製品を展開している。
従来型基盤はシステムごとに運用体制を構築していたことを踏まえ、三澤氏は「Kubernetesの優れているポイントは、各ミドルウェアで実装していた非機能要件をファンクションで持てることであり、われわれはミドルウェアをリファクタリングすることでミドルウェアからKubernetesにオフロードすることに成功しており、ミドルウェアの軽量化と効率化が図れる」と話す。
従来はさまざまな部分にミドルウェア、OS、仮想サーバを運用する場合に各メトリックスで管理することが必要だったが1つで運用管理でき、プラットフォームの運用効率化もミドルウェアのクラウドネイティブ化で可能になり、Kubernetes基盤運用に最適化されている。
また、同氏は「いきなりクラウドネイティブだけの開発環境になるわけではなく、既存の開発スタイルから新しいスタイルに徐々に移行していくことが重要なため、コンテナ化することで新しい環境に慣れ親しみ、最終的に既存のモノリシックアプリケーションのリファクタリングにチャレンジし、マイクロサービス化の可否を決めていくというクラウドジャーニーを支援していく。そのため、改めてCloud Paksは非常に重要な戦略製品だ」と、力を込めていた。
OpenShiftの環境を前提にして実装したCloud Pak for Security
一方、新たに提供するCloud Pak for Securityに関しては、日本IBM 執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 IBMセキュリティー事業本部長の纐纈正嗣氏が説明を行った。
纐纈氏は同製品について「セキュリティクラウドプラットフォームであるIBM Security ConnectをOpenShiftの環境を前提にして実装した製品だ。マルチクラウド化でIT環境が複雑になり、対策を講じているものの企業では60~100以上のツールを利用していることから分断化が進み、セキュリティは悪化している。そのため、SIEMですべてのログを集めて可視化しているが、ボリュームが1日あたり数TB~数PBとなり、ボリュームが大きくなりすぎている」と指摘。
同製品は、セキュリティデータを元の場所に置いたまま既存のセキュリティツールへの統合アクセスを実現することで、脅威インサイトを効率的に獲得できる。
また、具体的なアクションに落とし込み対応を自動化するインシデントレスポンスソリューションであり、調査のためのフェデレーション検索「Data Explorerとインシデント対応のケース管理「Resilient SOAR Platform」を組み合わせて、それぞれのツールに対して個別にアクセスし、分析していたものを単一のインタフェースで可能にしている。
例えば、あるマルウェアについて調査する際にレポートに記載されているハッシュ地で検索すれば、1つのクエリで複数のデータソースにわたり、調査を実行することができるという。
今後の販売戦略
Cloud Pakの販売戦略は「顧客支援体制の強化」「エコシステムの強化」「顧客向けプログラム」の3つの観点から推進していく。顧客支援体制の強化では、組織の枠を超えるためにプリセールスから提案、ソリューション開発、デリバリー支援までを含む新組織を10月に立ち上げている。
エコシステムの強化では、社内において「デジタル・イノベーション事業開発」チームを新設し、システムインテグレーターとのエコシステムを強化し、Cloud PaksをベースにITモダナイゼーションプラットフォームの提供に向けて活動を開始したほか、パートナー向けのDXスキル取得ための「Cloud」同乗の開催、DXセミナーの継続していく。
そして、顧客向けプログラムでは「Try Cloud Paks」と「Committed Term Licensed」を発表。Try Cloud Paksは、Cloud Paksの導入サービスとOpenShift IBM Cloudをパッケージにした形で50万円~300万円の範囲で利用できるエントリー型のサービス。今後、近日中にはコンテナ化支援などを行う「Application Moernization with Cloud Paks」も提供を予定している。Committed Term Licensedは従来は一括ライセンスと期間ライセンスで提供していたが、期間設定(1年以上)ライセンスを新たに加えている。
最後に伊藤氏は「今後もCloud Paksを順次アップデートするとともに、新製品のリリースも予定している」と述べていた。