日本ヒューレット・パッカード(HPE)は11月26日、都内で通信事業者や製造業における超大容量データのリアルタイム処理のために開発した「HPE Edgeline EL8000 Converged Edge System」の販売を開始すると発表した。価格は税別で214万7000円(「HPE ProLiant e910 1U Blade Server」1機搭載時)~。
HPE Edgeline Converged Edge Systemは同社が提供するエッジコンピュータ製品群であり、すでに「Edgeline EL300/1000/4000」を提供し、新製品は最上位機種となる。
新製品は5Uサイズの筐体「HPE Edgeline EL8000 5U Front Cabling Chassis」にブレードサーバの「HPEProliant e910 1U Server Blade」と「HPE Proliant e910 2U Server Blade」を搭載できる。
最大24コアのデータセンターで使用されるインテル Xeon プロセッサスケーラブルファミリを4基搭載可能なことに加え、2Uのサーバブレードには拡張性を持たせており、NVIDIA Tessla T4や同V100といったGPU、Intel FPGA PACなどのFPGAなどを搭載できる。ネットワークはフロント搭載のネットワークI/Fを選択可能とし、QSFP+、SFP+×2、RJ45 1Gb×2のほか、PCIe拡張カード(InfiniBand EDR / 100Gb Ethernetなど)をサポート。
共用部は1500W冗長電源、10Gb SFP+内臓スイッチがあり、動作温度は0~55度、通信機器向けの規格「NEBS Level 3」に準拠し、耐震動・耐衝撃性に加え、ファームウェア攻撃を保護する管理プロセッサ「iLO5」を備え、セキュリティ・遠隔管理性を有する。また、今後は空気の流れが逆方向となるファンのオプションの発売を予定し、19インチラック、5U、奥行き92cm、4シャーシ、合計16CPUと高集約の配置を行うことが可能になる。
エッジにおける5GやMEC(Multi-access Edge Computing)のNFV(Network Functions Virtualization)基盤に適しており、マルチメディア配信、コネクテッドモビリティ、スマートシティを実現するためのIoT、AI、動画解析など、大容量でデータをエッジにおいて低遅延で処理するニーズにも適するという。
日本ヒューレット・パッカード 執行役員 ハイブリッドIT事業統括の五十嵐毅氏は、ガートナーの調査結果を引き合いに、2022年にはエンタープライズにおいて生成・処理されるデータ74%は従来型データセンターやクラウド外で作られることに加え、2023年までにエッジに配備されるIoTの50%以上がAIモデルによる推論機能を持つようになると指摘。
そのような状況を踏まえ、五十嵐氏は「エッジとクラウド間におけるデータの行き来をつなぐことがテーマになる。これまでは有線とWiFiだったが、これからは5Gだ。昨今ではネットワークの高速化、コスト低減が進み、つなぐ部分の進化は大きくなっている。そのため、大量データの伝送、仮想現実などの没入型アプリなどを有効活用するにはリアルタイムの高速処理が必要であり、今後はデータ量も増大し、1つ1つのデータが大きくなるとともに、エッジ側にクリティカルなデータも存在するようになることから、テクノロジーの進化が求められる」と強調する。
同社では、通信事業者による5G+エッジクラウドの組み合わせと、企業・地方自治体による5G+プライベートなエッジクラウドの組み合わせを“5Gクラウド”と定義しており、今後はIoT側でAIの機能や分析などを行う地産地消がトレンドになるという。こうした状況を鑑みて、同社は昨年の「HPE Discover Las Vegas 2018」において、今後4年間でインテリジェントエッジ分野に4400億円を投資していく方針を示している。
日本ヒューレット・パッカード ハイブリッドIT事業統括 ハイブリッド製品統括本部 Edgeline カテゴリマネージャーの北本貴宏氏は、新製品で活用している技術について「vRAN(Vitual Radio Access Network:仮想無線通信アクセスネットワーク)と、MEC基盤、アプリケーションのための基盤の3つが挙げられる」と説明する。
vRANについてはLTEや5Gにおける特殊なトラフィックの通信データの処理を従来は専用機器で行っていたが標準のx86サーバで扱えるようにしている。MEC基盤に関しては5Gクラウドを実現するためのクラウド基盤と位置付けており、仮想化や各アプリケーションのコントロール・配布などを行う。アプリケーション基盤は、VR/AR、AI/IoTなどを利用可能な基盤の仕様となっている。
住友重機械工業の事例
続いて、住友重機械工業の導入事例が紹介された。同社では射出成型機向け生産品質管理システム「i-Connect」を提供しており、データ収集用サーバとしてEL300と同1000を導入し、国内外の顧客に同システムのソフトウェアをハードウェアにセットアップして販売している。
住友重機械工業 プラスチック機械事業部 技術部 主任技師の羽野勝之氏は「選定した理由として、EL300は製造現場近くのオフィスなどへの設置を考慮した堅牢性を持ち、OEM契約のため日本から海外に輸出したHPE製品の保守を他国でも受けられる。そして、開発段階でHPE IoTコンピテンスセンターにおいて、無償で120台の機械を模擬した通信評価テストなどを行えたからだ」と述べており、構想から約1年半で製品化までこぎつけたという。
現在はデータ収集、蓄積した上で稼働状況や生産進捗の可視化に加え、閉域回線で遠隔地の向上をモニタリングして、本社で生産進捗状況の把握、トラブル支援などで利用されている。しかし、今後は機械学習や深層学習、各種分析アルゴリズムで分析し、最適化処理、自動調整、自立判断の領域まで活用範囲を広げていく。
また、多様なデータをエッジだけでなく、クラウドでのデータ処理も視野に入れており、エッジやクラウドのさまざまなデバイスプロトコルをサポートするソフトウェア「Edgeline OT Link Platform Software」によるクラウド連携のほか、現在はi-Connectとサーバ間は有線LANで接続しているため工場内をローカル5Gでつなぐことでデータを無線で転送することなどに取り組む考えだ。