台湾GlobalWaferds(環球晶円)傘下の韓国MEMC Korea工場の第2工場(Fab2)が竣工し、来年末までに4億6000万ドル(約500億円)を投じて韓国半導体企業向けに300mmウェハの増産を始める。GlobalWafersの公式発表によると、 Fab2がフル稼働に達する来年末には生産能力が17万6000枚/月(300mmウェハ)増えて、GlobalWafers(傘下のMEMCを含む)全体では月産100万枚を超す規模に到達するという。

異例の文大統領の竣工式典出席

忠清南道天安(チョナン)市に位置するMEMC韓国工場で11月22日に行われた「MEMCシリコンウェハ第2工場」竣工式には文在寅 大統領が出席。「現在、韓国はシリコンウェハの65%を(主に日本からの)輸入に頼っているが、新工場稼働で、輸入依存度を9ポイント下げられる。これが中核素材の自給を高める重要な契機となるだろう」とあいさつを述べた。文大統領が外資系企業の工場を訪問するのは大統領就任以来初めてのことで、文大統領のなみなみならぬ素材国産化に対する熱意の具現化と韓国メディアは伝えている。

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    MEMC Korea Fab2の竣工式典で撮影された関係者たちの集合写真。中央立つのが文韓国大統領とGlobalwafersの Doris Hsu会長(徐秀蘭 董事長。赤いセーター姿の女性) (出所:GlobalWafers Webサイト)

また、文大統領は「(7月に日本政府が半導体素材の輸出規制を発表して以来)4カ月以上にわたり、素材、部品、製造装置国産化を促進してきたが、この支援対策は外資系企業にも等しく適用されるため、今後、韓国に(海外から)より多くの投資が行われ、素材、部品、装置の生産や開発が活発になることを期待している」と述べ、外資企業の韓国への誘致を今後、積極的に行う意向を明らかにしている。

急ぐ日本が輸出厳格化を行った素材3品目の国産化

文大統領は、式典でのあいさつで日本政府が7月に輸出の厳格化を行った素材3品目にも触れ、「韓国におけるフッ化水素(液体)の国内生産能力が(7月以降)すでに2倍に達しており、フッ化水素ガスとフッ化ポリイミドも新規生産工場を韓国内に建設中で、年内に竣工し、来年から量産に入る。政府は工場新増設許認可の迅速化、資金援助や社員の残業規制緩和などさまざまな政策で素材国産化を支援している」と述べた。

韓国政府は、日本政府による半導体素材の輸出厳格化などの措置が日本企業が圧倒的なシェアを握るシリコンウェハにまで広げることを警戒しており、これが今回のGlobalWafersの韓国内でのウェハ増産を歓迎する背景にある。

韓国資本のシリコンウェハメーカーはSK Siltron(元LG Siltron)だけであるが、MEMC Korea同様、素材の韓国内での生産強化に向け、300mmウェハの増産体制を敷いている。また、SK Siltronは、先手を打って、次世代半導体基板と言われるSiCウェハ事業を9月に米Dupontから買収している。

著者の調べでは、韓国には、もともとSoulbrain、ENF Technology、RAM Technologyなどの高純度フッ化水素(液体)精製メーカーが存在するほか、ステラケミファや森田化学も韓国内に日韓合弁のフッ化水素精製メーカーを持っている。フッ化水素原液は、中国で中国資本や日中合弁企業が製造しており、韓国勢は日本からの輸入に頼らないサプライチェーンを構築できた。一方、韓国SK財閥は、素材国産化検討のためにグループ内に「IT素材ソリューションプラットフォーム」を立ち上げ、傘下の大手化学メーカーSKCがフッ化ポリイミドを、SK Materialsがフッ化水素ガスを生産するための工場を建設中である。日本政府が輸出を厳格化した素材3品目については、日本からの輸入に依存しないサプライチェーンが構築するめどが立ったようだ。日本企業も韓国を含む海外自社(および合弁)工場での増産体制を敷き、韓国半導体企業へ直接出荷を始めている。このままでは、日本からの出荷が先細り、日本のものづくりの空洞化が懸念される。

世界規模で果敢に事業拡大するGlobalWafers

シリコンウェハ業界では、信越化学の子会社である信越半導体とSUMCO(旧社名:三菱住友シリコン)の大手2社で世界シェア6割近くを握っている。これら2社に大きく差をつけられて、台GlobalWafers(傘下のMEMCを含む)、独Siltronic、韓SK Siltronがシェア10%台で団子状態にあるが、2016年に米SunEdison(元MEMC)を買収し6位から一気に3位に浮上したGlobalWafersが一歩抜け出している。

MEMCはもともとMonsanto Electronic Materials Companyの略で、化学薬品メーカーのMonsantoを源流としたシリコンウェハメーカーであったが、一時、SunEditonと改名し、それをGlobalWafersが2016年に買収した。買収後、社名を MEMCに戻してGlobalWafers傘下の企業として今日に至っている。GlobalWafersは、日本にMonsantoの流れをくむエム・イー・エム・シー(本社工場:栃木県宇都宮市)のほかに、東芝セラミック(のちにコバレントマテリアルズ)のシリコンウェハ事業子会社(コバレントシリコン)を2012年に買収して2013年に改名したグローバルウェーハズ・ジャパン(本社:新潟、工場:新潟、山形、山口)を所有している。同社は、台日のほか米国(もともとのMEMCの本拠地)、韓国、マレーシア、イタリアなどにシリコンウェハ製造工場を持ち、文字通り、世界展開しているが、相次いで買収した各工場の規模は他社より小さい。