NEDOは11月19日、「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業で、植物工場での野菜栽培過程や流通でのビッグデータ収集と人工知能(AI)を活用した需給マッチングにより、植物工場での野菜の廃棄や販売機会の損失の削減に取り組んでおり、同事業において、ファームシップと豊橋技術科学大学がAIを活用した野菜の市場価格の予測アルゴリズムを開発したと発表した。
植物工場は、天候に左右されず野菜などを生産できることに加え、露地栽培に比べて狭い耕地での生産が可能なことから生産量は近年著しく伸びているが、植物工場の野菜需要は露地野菜の供給量の変動に大きく左右されるため、生産した野菜の廃棄や販売機会の損失が生じ、本来は効率的な生産が可能であるにもかかわらず、その特徴を活かせていなかったという。
これらの課題を解決するために、NEDOは「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業を行っており、具体的には植物工場の野菜栽培過程や流通でのビッグデータ収集し、これらのデータとAIを活用した需給マッチングと、これに基づいた栽培物の成長制御や物流など各プロセスの最適化などにより、バリューチェーン全体を効率化することで、植物工場における野菜の廃棄や販売機会の損失の削減を目指している。
同事業においてファームシップ、東京大学、豊橋技術科学大学、パイマテリアルデザインは2018年度から生産・流通・販売の各段階で現場データを活用した需要予測システムと、その予測結果を生産現場にフィードバックする成長制御システムの研究開発を実施しており、月単位での需要予測、成長制御システムの基本設計が完了した。
そして今回、NEDOとファームシップ、豊橋技術科学大学は、植物工場の野菜の需給マッチングの基礎として、AIを活用した野菜の市場価格の予測アルゴリズムを開発。ファームシップは、市場価格と植物工場野菜の販売量のデータを相関分析することで、植物工場で生産される野菜の需要は、市場流通している野菜の価格に大きく依存していることを解明し、大田市場のレタスの市場価格と植物工場のレタスの需要量の相関関係が高いことを見い出した。
そこで、これまでの野菜の市場価格などのビッグデータを収集し、AIがそれらを機械学習し解析することで、1~2カ月先のレタスの市場価格を高精度に予測する仕組みを開発。これにより、栽培事業者における需要予測精度が高まり、野菜の廃棄や販売機会の損失削減効果が期待できるという。
ファームシップは同アルゴリズムを用いて、東京都の大田市場のレタスの市場価格を予測して配信するサービスを栽培事業者向けに11月下旬から12月の予測から配信開始を予定しており、利用希望者はファームシップのHPにアクセスし、ユーザー登録することで大田市場のレタスの市場価格の予測をメール配信で入手できる。なお、同サービスの利用はNEDOプロジェクトの成果として無償公開する。
同本事業でNEDOとファームシップ、豊橋技術科学大学は、現場データの収集および需給予測、生産制御システムの要素技術を確立し、実証実験を行うことで、これらのシステムの有効性を検証することに加え、ファームシップは予測値と実績の相関関係などの精度を確認した上で、対象とする品目を順次拡大するとともに、対象とする市場も広げ、サービスを拡充することを検討している。
また、ファームシップ、豊橋技術科学大学は同サービスで得た情報をもとに「AIによる植物工場等バリューチェーン効率化システム」の研究開発を進め、栽培物の成長制御や物流など各プロセスの最適化と組み合わせて、バリューチェーン全体の効率化を目指す考えだ。