「Human in the New Age ―どんな未来を生きていく?―」をテーマに科学技術振興機構(JST)が主催する国内最大級の科学フォーラム「サイエンスアゴラ2019」が15日、東京・お台場地区の日本科学未来館で開幕した。サイエンスアゴラは今年で14回目。16日、17日は主会場をテレコムセンタービルに移し、3日間の会期中、基調講演やキーノートセッション、ブース企画など、合わせて140以上の多彩な企画が進行する。
今回のテーマは「Human」。つまり「人」の未来を正面から捉えている。今年の「サイエンスアゴラ」は「こうありたいと願う未来を創るための科学技術とは」といった重要な問いに向き合い、未来に向かって自分たちが何を選び、どう生きていくのかをさまざまな視点から考える機会を提供できるよう企画された。
15日は午後1時から開幕セレモニーが行われた。JSTの濵口道成理事長が主催者を代表してあいさつ。「サイエンスアゴラでは科学者だけでなくいろいろな人に集まっていただき、科学技術を通じて私たちの未来や幸せとは何か話し合う場にしてもらおうと思っている。人工知能や遺伝子治療などの登場で科学が神の領域に入りつつあるとともに、気候変動や食料の問題など(地球規模の問題が)生じている。科学技術の光と影がはっきり見える時代になった」などと述べ、サイエンスアゴラのような場で科学者や政策担当者、産業界や市民らが科学や社会、人類、人間の未来について「対話」することの大切さを強調している。
続いて、来賓の文部科学省の菱山豊 科学技術・学術政策局長が「サイエンスアゴラは2006年から開催され、私は第1回目に参加し、その後何回か出席しているが益々発展している。科学技術だけでは解決できない問題や社会課題をいろいろな人が集まって考えるのは非常に重要だ」などと、今年のサイエンスアゴラに期待を寄せた。
この後、内閣府の高原勇 官房審議官や日本経済団体連合会(経団連)産業技術本部の吉村隆 本部長、駐日欧州連合代表部のパトリシア・フロア大使らがサイエンスアゴラに期待を寄せるあいさつをした。
開幕セレモニーに先立ってこの日の午前10時から、研究機関の集合体である国立研究開発法人協議会(国研協)が主催するセッションがあり、国連・持続可能な開発目標(SDGs)の達成のために自然科学系や社会科学系の技術はどのように連携すべきかなどを議論した。
続いて10月下旬に授賞者が発表された「STI for SDGs」アワードの表彰式が行われた。「STI for SDGs」アワードは、STI(Science, Technology and Innovation)で地域課題を解決する優れた取り組みを表彰し、その取り組み内容を発信、他の地域にも共有してもらい、SDGsの達成への貢献も期待して創設された。
表彰に先立ち選考委員会委員長の慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 蟹江憲史氏が「素晴らしい50件ほどの提案の中から慎重に選考した。文部科学大臣賞の取り組みは、未来に向けていかに資源を少なく使いながら素敵なものを作っていくという点で非常に高い評価を受けた」「次世代賞はこれからの可能性を秘めた提案で、地域住民を巻き込んだ課題解決をしっかりやっており、今後の広がりが期待される」などと講評した。
文部科学大臣賞は、北陸先端科学技術大学院大学、山梨県立大学の取り組み「染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め」に、科学技術振興機構理事長賞は「みんな電力株式会社」の取り組み「『応援』やブロックチェーンを通じて再生可能エネルギーの生産者と消費者をつなぐ『顔の見える電力』」に授与された。
また次世代賞は高校生が主導して地球温暖化による海面上昇量を推定する取り組みが評価された熊本県立天草高等学校科学部 海水準班に授与された。このほか、優秀賞は農業・食品産業技術総合研究機構、アイ‐コンポロジー株式会社、高知大学・香南市・高知県・前澤工業株式会社・日本下水道事業団、株式会社スマイリーアースの4団体に授与された。
次世代賞を受賞した熊本県立天草高等学校の代表の女子高生は「素晴らしい賞を頂き嬉しいです。私たち次世代が地球温暖化の問題を解決するためにも、今後自分たちの研究成果を上げて他地域や海外に広げていきます」と受賞の喜びを話していた。
「基調講演」は2人が登壇した。土木コンサルタントとして単身でインドに赴任し、地下鉄工事をけん引したオリエンタルコンサルタンツ インド現地法人 取締役会長の阿部玲子氏が「マダム、これが俺たちのメトロだ」と題して、また、ユーロサイエンス総裁のマイケル・マトローズ氏が未来世代に対して未来の科学界の担い手が何をなすべきかについてそれぞれ約20分にわたって講演した。2人の講演のタイトルは異なるが、国境を越えて多様なステークホルダーとの「共創」を実践している点では共通していた。
キーノートセッションは午後2時半から始まり、奈良先端科学技術大学院大学准教授の駒井章治氏がファシリテーターを務めた。駒井氏のほか、オランダのマーストリヒト大学教授で培養肉を開発する「モサ・ミート」CSOのマーク・ポスト氏や、インタラクティブ技術などが専門の東京大学大学院情報理工系研究科教授の稲見昌彦氏ら多彩なパネリストが登壇した。
科学技術が日常生活の中で見えにくい時代に人々は生きているが、AIなどさらに新しい技術が社会に浸透すると、その傾向はさらに強まり、生き方や人と人のつながりも変わっていくと予想されている。セッションでは、今年のサイエンスアゴラのテーマ「Human in the New Age ―どんな未来を生きていく?―」をそのまま議論のテーマに据え、「人とは」「人間らしさとは」といった人間存在の本質や未来の科学技術のあり方について熱い議論を展開した。
16日、17日はテレコムセンタービルの1階、3~5階、8階、20階の各階を使って親子連れや学生ら若い人を含めた一般市民も共に考え、楽しめるよう工夫された大学、研究機関などが出展するブース企画や来場者も議論に参加できるワークショップが進行する。
17日は「未来の食」として注目されている「培養肉」をテーマに、午前11時半から午後1時までトークセッションやディスカッションが、午後2時半から5時まではシンポジウム「未来の食料生産に向けて~培養肉の最前線」が予定されている。
このほか、16日、17日の両日、アゴラ市民会議「どんな未来を生きていく? ~AIと共生する人間とテクノロジーのゆくえ」(16日)や、良縁創出企画「お台場100人論文」(16、17日)、3DCG女子高生「Saya」の紹介もあるEmo-talk(16、17日)、ANAアバターで瞬間移動を体験しよう!(16、17日)、未来の乗り物『RODEM(ロデム)』を体験しよう!(16、17日)、原子や分子をながめたら・・・?!(16、17日)、顕微鏡でみてみよう~植物の観察とキーホルダー作り~(16日)、あなたが”がん”といわれたら~患者と家族をみんなで支える"医療コミュニケーション"(16日)、AIと人間の違いってなんだろう? ―個人背景・主観・カテゴリー付けより―(17日)など、多彩なセッション、ブース展示が展開する。
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