名古屋大学や大阪府立大学などの研究者で構成される国際研究チームは11月14日、アルマ望遠鏡を用いて、地球から約16万光年離れた銀河「大マゼラン雲」の生まれたばかりの大質量星の形成メカニズムを解明することに成功したことを明らかにした。

同成果は、名古屋大学(名大)大学院理学研究科の福井康雄 特任教授、大阪府立大学の徳田一起 客員研究員(国立天文台 特任研究員)、大阪府立大の原田遼平氏、同 西村淳 研究員、同 Sarolta Zahorecz客員研究員(国立天文台特任研究員)、同 大西利和 教授、名大の立原研悟 准教授、同 柘植紀節氏、国立天文台の西合一矢 特任助教、同 鳥居和史 特任助教、同 南谷哲宏 准教授、同 水野範和 教授(東京大学)、河村晶子 元国立天文台 特任准教授、宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のOmnarayani Nayak氏、同 Margaret Meixner氏(ジョンズ・ホプキンス大学)、バージニア大学のRemy Indebetouw氏(アメリカ国立電波天文台)、アメリカ航空宇宙局(NASA)のMarta Sewilo氏(メリーランド大学)、パリサクレ―大学のSuzanne Madden氏、同 Maud Galametz氏、同 Vianney Lebouteiller氏、マックスプランク電波天文学研究所のC.-H. Rosie Chen氏らによるもの。詳細は2019年11月14日付の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル(Astrophysical Journal)」に2編の論文として掲載された(論文1論文2)。

太陽の数百倍の質量を有する大質量星は、星自体が巨大化していく過程で、星自身の圧力により、成長に必要なガスを飛ばしてしまうため、一定の規模以上に大きくなることが難しいことから、星全体の0.1%以下しか存在しないことが知られており、どうやってそれだけの質量を有する星が形成されるのかの仕組みについては良くわかっていなかった。

今回、研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、大マゼラン雲の観測を行うことで、この仕組みの解明に挑んだという。大マゼラン雲を選んだ理由は、アルマ望遠鏡を用いることで天の川銀河の天体のような分解能で観測ができるようになったこと、ならびに20年以上にわたって名大の研究チームが「NANTEN2(なんてん)」望遠鏡を活用して観測を行ってきた銀河であり、先行してさまざまな成果を得ていたためであるという。

具体的には、なんてん望遠鏡の観測で、大マゼラン雲の中でももっとも高密度にガスが集中する領域であることが判明している「かじき座30(毒蜘蛛星雲)」に近い星雲「N159」領域を観測。その結果、N159の東側(N159E)領域の詳細な分子雲の分布が判明。ガス雲が100本ほどのフィラメント状の構造をなして先端の太陽の20~40倍程度の大質量星を要として扇のように拡がっていること、ならびにN159に西側(N159W-South)領域にも、同様に要に位置する太陽の30倍程度の若い大質量星からフィラメント状の分子雲が数本絡まるように伸びていることが確認されたという。このフィラメント形状は孔雀の広げた羽のようにも見えるため、研究チームでは2つ分子雲を「2羽の孔雀(Two peacocks in the Large Magellanic Cloud)」と命名したとする。

  • 大マゼラン雲

    アルマ望遠鏡で観測された大マゼラン雲の2つの分子雲。左がN159E領域、右がN159W領域。N159Eの青色部分が水素が破壊されて1万℃ほどの電離ガスとなっており、その中心に大質量星がある。N159Wの青色部分は、まだN159Eほど熱くなってはおらず、これから熱くなっていく部分で、非常に若い大質量星が中心にある。周辺の緑や黄色の色はガスの速度の違いで分けられている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Fukui et al./Tokuda et al./NASA-ESA Hubble Space Telescope)

また、このN159EとN159Wの距離は約150光年ほどで、同じ方向を向いていることから、偶然ではなく銀河規模で何らかのガスの激しい運動が起こっている可能性があると考え、さまざまな角度から検討を実施。その結果、2億年ほど前に大マゼラン雲と、その隣の小マゼラン雲が近接したことで、重力の強い大マゼラン雲が小マゼラン雲のガスを引き出し、両銀河の間を運動して、大マゼラン雲に衝突。その衝突の特異点が、今回の2つの領域であり、そこでは水素の原子ガスが毎秒100km程度の衝突速度でぶつかり合って、強い圧縮を引き起こし、それが大マゼラン雲における大質量星を形成することにつながること、ならびにガス雲衝突後にひも状の分子雲が形成されたこと、2つの領域のガス雲衝突はほぼ同時ながら、N159Eの大質量星のほうが幾分早く誕生したが、N159Wも含め、いずれも1~10万年程度の若い星であることなども分かったという。

コンピュータシミュレーションが描き出したガス雲衝突の過程 (C)国立天文台/Inoue et al.

なお、福井特任教授は、「大マゼラン雲には500個ほどの大質量星が確認されており、その70%以上が、こうした衝突起源で誕生していると考えられる。今回の成果は、少なくとも大マゼラン雲の大質量星の形成メカニズムに関する動かしがたい証拠の発見であり、これで説明がつくようになった。銀河同士の衝突は、実はそれほど珍しいことではないことが近年分かってきた。今回の成果を踏まえれば、今後、大質量星の形成プロセスから、惑星系や銀河の形成プロセスへとつながる可能性がでてきた」と今回の成果が、今後の星や銀河誕生のメカニズム解明につながるとの期待を述べており、さらなる宇宙の謎解明に向けた研究を進めていきたいとしている。