既報の通り、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月12日、小惑星探査機「はやぶさ2」の地球への帰還を、同13日より開始することを発表した。同日開催された記者説明会には、津田雄一プロジェクトマネージャが出席、約1年半にわたったリュウグウ滞在を「文句なしの成果が得られた。メンバー全員が満足している」と総括した。
はやぶさ2がリュウグウに到着したのは2018年6月。地表に平坦な場所が見当たらず、1回目タッチダウンの延期会見では津田プロマネが「リュウグウが牙をむいた」と表現したこともあったが、終わってみれば2回のタッチダウンを成功させ、人工クレーターの生成まで実現した。成果としては、理学・工学ともほぼパーフェクトと言えるだろう。
「こんなに難しい場所だというのは想定外だった」と当時を振り返る津田プロマネだが、長く対峙する中で気持ちも変化した。「なんとかギリギリでやれた。やれたということは、ちょうど良いレベルの難問だったのかもしれない。それによって我々の技術レベルを引き上げてくれた。今は感謝している」と述べた。
苦労はしたものの、「これを乗り越えられたことで、見えてきた世界がある」と津田プロマネは言う。「作戦を練りに練ってやっと精度60cmで着陸できたが、次からはこれが前提になる。1m精度で着陸できるとすると、どんな探査ができるか。1ステップも2ステップも、我々の考えるレベルが上がった」と、手応えを実感する。
リュウグウでの一番の思い出を聞かれた津田プロマネは、少し考えて「2018年9月12日。これが大きな分岐点だったと思う」と返答。
この日は、タッチダウンリハーサルの1回目(TD1-R1)が行われていたが、レーザー高度計(LIDAR)に問題が発生し、降下を途中で中断していた。「すぐにチームで集まって対策を検討した。そこで、当初計画を変更して、ターゲットマーカーを先に投下しようという決断ができた。大きな方針転換だったが、これがその後の成功に全て繋がった」と述べた。
また、一番大変だったことについても質問が出た。これについては、「1回目タッチダウンの見通しが立つまでの4カ月」と回答。「想定より厳しいことが分かってきて、いろんな試行錯誤を始めたが、行き詰まっては戻る、を繰り返した。何もできないまま、小惑星近傍フェーズが終わるのではという不安もあった」と、苦しかった心情を吐露した。
今後の予定だが、11月13日にスラスタを噴射し、地球への帰還を開始した後は、まずリュウグウのヒル圏(重力の影響範囲)を抜ける18日まで、「お別れ観測」を実施する。これは科学目的というより、「お別れを皆さんと共有するのが目的」とのこと。遠ざかるリュウグウの様子は、随時WEBにて公開される予定だ。
その後、探査機を観測姿勢から太陽指向姿勢に変えて、約2週間、イオンエンジンの試運転を行う。同様の試運転は、往路の巡航運転を開始する前にも行っていたが、復路でも同じように、スラスタを1台ずつ動かして状態をチェックする。問題が無ければ、12月3日以降に巡航運転を開始する予定だ。
地球への帰還は約1年後。今のところ、まだ2020年11月~12月という以上の情報は無いが、今後、オーストラリア政府機関との調整などを完了してから、正式な日程が発表される見込みだ。