半導体表面の洗浄・乾燥とコンディショニング(表面準備)技術に焦点を絞った国際会議である「The 16th International Symposium on Semiconductor Cleaning Science and Technology(SCST 16:第16回 半導体洗浄科学技術国際会議)」が去る10月中旬に米国ジョージア州アトランタで開催された。

米国電気化学会(The Electrochemical Society:ECS)が主催し、同学会の2019年秋季大会の併催行事として開催された。このたび、講演論文集(約300ページ収録の電子書籍)が主催学会から刊行されたので、その中から最新の研究テーマに関する主要講演内容を紹介したいと思う。

  • SCST 16

    SCST 16の講演論文集の表紙 (ECS Transactions、Vol.92, No.2として米国電気化学会(ECS)より2019年10月に刊行)

日本の強み、半導体洗浄技術

29件の発表を、発表者の所属組織の所属国別に分類すると、日本が11件で、全体の4割弱を占めてトップ。次いで米国8件、韓国7件、ベルギー2件、フランス1件の順だった。基調講演も国別で見ればimecなのでベルギーであるが、実際はimec社員である日本人研究者が登壇しており、日本人の活躍が目立っていた。

半導体洗浄装置の市場シェア(2017年度、Gartner調べ)でも、SCREENが42%、東京エレクトロン(TEL)が25%と日本の2社だけで7割近いシェアを誇っており、日本勢が圧倒的な強みを発揮している数少ないプロセス分野である。前工程(ウェハプロセス)の装置で日本勢が高いシェアを維持しているのは洗浄装置とフォトレジスト塗布・現像装置(クリーントラック)だけである。 

組織別発表件数は、韓国の延世(ヨンセイ)大学が5件でトップ、SCREENが3件(ベルギーimecと共同発表を含む)、静岡大学が3件(荏原製作所と共同発表を含む)、TELグループが2件(TEL九州、TEL Americaが各1件)、米テキサス大学が2件、米アリゾナ大学が2件、ベルギーimecが2件(1件は企業・大学名が省略)という順となっている。延世大が洗浄技術の研究に注力している点が注目される。

日本からの11件の発表テーマは以下のとおり。台風19号の影響で、開催期間直前の週末に東京発のほとんどの国際便が欠航となったため、日本からの発表の一部はキャンセルとなってしまったが、論文集にはすべての論文が収録されているので、本稿では論文集の記載内容を基に紹介する。

  • SCST 16

    SCST 16における日本企業・大学からの11件の発表 (ECS資料を基に著者作成)

発表内容からは、ベルギーimecがSCREENや栗田工業などの日本企業とロジックデバイスの最先端プロセス開発で共同研究を進めていることがうかがえるほか、CMP装置メーカーの荏原製作所は静岡大学や芝浦工業大学に研究委託を行っていることも垣間見える。

静岡大学の発表3件はすべてCMP後にウェハに残留した汚い残渣を除去する目的のブラシ洗浄に関する詳細な観察結果の報告である。東京エレクトロン九州は、高アスペクト構造のSiをTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)でエッチングする際に液中のDO(溶存酸素)の濃度分布がエッチングレートの不均一性に影響することを明らかにしたほか、芝浦工大は、枚葉スピン洗浄後にマランゴニ効果を利用したロタゴニ乾燥の際のIPA蒸気の対流をシミュレーションし、可視化を行った。ロタゴニとはスピン洗浄のローテーションとマランゴニ効果を合わせた造語である。

半導体メーカーからの発表は皆無

今回は、キオクシア(旧東芝メモリ)をはじめとする日本の半導体メーカーからの発表はなかった。日本だけではなく、世界中の半導体メーカーから1件の発表もなかった。シリコンウェハ洗浄・乾燥技術は、リバースエンジニアリングでは決して探れない、各社が秘密にしておきたいプロセスとなっており、プロセスが複雑化し新材料や新構造が導入にともない最近は特にその傾向が強いためであろう。

例えばSamsung Electronicsは、DRAM量産工場で、情報を記憶しておくために必要な高アスペクト比の円柱状キャパシタの洗浄後に超臨界二酸化炭素を用いた乾燥方式を採用し水の表面張力(超臨界状態ではゼロ)によるパターン倒壊を回避している事が以前、韓国のマスコミで取り上げられ、一気に洗浄業界関係者にその情報が広まったが、実際のところ、同社は使用していることを公表してはおらず、学会発表も避けている。ライバルのDRAMメーカー各社も後を追う形で導入を検討しているとされるが学会発表には至っていない。

このような半導体メーカーの秘密主義に替わって、最先端の半導体研究を行っているimecは、次世代ロジックデバイス構造のエッチングや洗浄に関して詳細な研究結果を学会で発表し続けている。世界中の大手半導体メーカーとの共同研究を行っている(実際には、これらの半導体メーカーから研究委託費を主たる収入源としている)imecにとっては、研究発表が研究受託ビジネスの呼び水になるからであろう。