米フォーブス誌によると、世界の60歳以上の人口は、2050年までに20億人に達すると予想され、その数は世界人口の5分の1以上を占めることになります。

高齢者が増え続けることで、家庭でのより高度な見守りが必要となりますが、同時に個人の自律性も保たれるようにしなければなりません。米国疾病管理予防センターによると、毎年、高齢者の4分の1近くが転倒しており、高齢者が外傷関連で入院する一番の原因となっています。本稿では、転倒検知システムがセンサ主導型ソリューションによる高精度な点群データを活用することで、非接触でプライバシー侵害のないセンシングを実現する方法について解説します。

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    図1:高齢者、障がい者、および緊急時用モニタリング・システムでの姿勢検出にミリ波センサが活用できる(写真はイメージ)

ミリ波センサで解決する転倒検知システムの課題

TIのミリ波センサ「IWR6843」は、モニタリングの対象者と接触していなくても、高精度でその姿勢を検出することが可能です。このセンサは、どのような照明条件でも検知することができ、間に障害物があってもセンシングが可能です。3D点群情報を活用し、ある状況下の距離、角度、速度のデータ・パラメータをシステムに送ることができるのです。

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  • 図2:ミリ波センサによる「人間の転倒や姿勢の検出」のデモの様子

上記のような人間の転倒や姿勢の検出のデモでは、TIの60GHzチップセンサ「IWR6843」を壁に取り付け、人の高さや姿勢を検知することが可能であることを示しています。同製品を使用する理由は、世界的に60GHz帯域がRFセンシング・アプリケーション向けにオープンにされているためです。

このデモでは、水平方向と垂直方向の両方で120度の視野角を持つ評価モジュール(EVM)「IWR6843ISK-ODS」を用いています。EVMを6.5ft(約2m)の高さに取り付けましたが、上下の視野角が広いので床まで視野が広がり、死角が最小限になります。アンテナ・オン・パッケージEVMである「IWR6843AOPEVM」向けにデモを作り替えることも可能です。

図3に示すような3D点群情報を使うことで、点群の形や色によりシステムが個人の高さや姿勢を解析できますが、個人を特定できる情報は明らかにされません。図に示す点群の輪郭の違いにより、人間の姿勢が示されることに注目してください。

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    図3:点群のスクリーンショットとその下の写真をそれぞれ比較。横になっている人の横長の輪郭を示す青い点(a)、座っている人の丸い輪郭を示す青と緑の点(b)、立っている人の縦に長い輪郭を示す青、緑、黄色の点(c)

図3のそれぞれの画像を比べると、点群の形が変化していることがわかります。立っている人は縦に細長い点の集まりで表されますが、横になっている人は縦に短く、横に広い集まりになるのが普通です。

この点群の形、大きさ、色の情報を使って、アルゴリズムが人の姿勢を検知し、転倒かどうかを判断します。高さ(このデモではZ軸)が突然マイナス方向に変化し、姿勢が急に変化した場合は常に、転倒したとセンサが認識します。姿勢の変化は、Zパラメータがx(長さ)とy(幅)のパラメータよりもかなり大きい状態からかなり小さい状態へと変化することでも検知できます。これは、立っている姿勢から横たわっている姿勢へと急に変化したことを意味します。

長い距離で、非接触の姿勢検知

現在の高齢者警報システムの多くは、ユーザーがボタンを押して応答を発信する必要がありますが、転倒して意識がなくなった場合には不可能です。ミリ波センサを利用した場合は、システムが転倒の可能性を検知して応答を発信するので、一人ひとりが警報ボタンを常時携帯する必要がありません。

プライバシーを侵害しない転倒検知を実現

ミリ波センサを単独のシステムとして使用すると、家庭内や建物内に物理的に配置する際の自由度が高くなります。ミリ波テクノロジは、画像ではなく点群データを取得するため、風呂場や寝室といったプライバシーが必要な場所でも、検知システムとして使用できます。プラスチックや石膏ボードを通しても検知が可能なため、目立たないように設置でき、デザイン性も担保することが容易にできます。

高精度な測定のための豊富な点群データ

高齢者のモニタリング・システムでは、通常の状態にある人の姿勢や高さの差を見分けるために、高い分解能が必要です。ミリ波センサでは3D点群と速度の情報を出力し、これにより人が転倒したかどうかを判断できます。

まとめ

ミリ波センサは、高齢者のモニタリングや緊急事態にも利用できる家庭内モニタリング・システムに適したインテリジェント・ソリューションといえます。TIのIWR6843を利用した転倒検知システムも、どのような使用環境でも頑強で携帯する必要がなく、高精度のモニタリングを実現しながら、個人のプライバシーも守ることができる性能を有しているといえます。

参考情報

著者プロフィール

Keegan Garcia
Texas Instruments