ヴァイナスは10月10日~11日にかけて、都内でプライベートカンファレンス「VINAS Users Conference 2019」を開催。同カンファレンスにおいて、オープンソースCFDソフトウェア「HELYX」の開発、販売を行っている英Engysの事業本部長であるFrancisco Campos氏が、次世代バージョン「HELYX 3.2.0」の概要などについて説明を行い、マルチフィジックスの実現に向けた開発を行っていることなどを明らかにした。

  • ヴァイナス

    次世代バージョン「HELYX 3.2.0」の説明を「VINAS Users Conference 2019」にて行う英EngysのFrancisco Campos氏

HELYXはオープンソースCFDソルバ「OpenFOAM」を業務で利用することを目的に開発されたもの。オートメッシャ・CFDソルバ「HELYX-Core」と、各種パラメータを設定するためのGUI環境「HELYX-GUI」を中核としてさまざまなアドオンなどを展開している。

  • ヴァイナス

    HELYXの概要。HELYX-CoreとHELYX-GUIを中心にアドオンなどが提供される (出典:本レポートのスライド画像はすべてVINAS Users Conference 2019におけるCampos氏の発表資料をコピーしたもの)

その最新版となる「HELYX 3.2.0」について同氏は、「2019年10月末もしくは11月の頭にはリリースできると思う」と説明。新機能としては、従来以上に幅広く可視化を可能とするGUI「View Tab」の提供や、Pythonで記述され、Pythonのスクリプトと組み合わせて、複雑なオペレーションも実行可能とする「Macro Language」の追加、メッシュ関連の処理手法などの強化、回転コンポーネントなどのモデルやソルバへの対応強化といった取り組みのほか、トポロジー・形状最適化アドオンソルバであるAdjointのエンジンの改良により、よりスムーズな表示の実現なども可能になるという。

  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • ヴァイナス
  • 最新版となるHELYX 3.2.0は2019年10月末ころのリリース予定で、新たに100を越す機能拡張や機能追加がなされる

また、併せて現在、CFDの解析からマルチフィジックスへの対応に向けた開発を進めていることも明らかにした。9月に開催されたEngysのUser Group Meeting(UGM)では、同社のHELYXとパートナーである独ThermoAnalyticsの熱シミュレーション「TAITherm」を連携するといった発表があったとのことだが、この場合は、TAIThermで得た結果をHELYXに、そしてHELYXで得た結果を再びTAIThermに戻す、といった複数の解析を順に行う、といった取り組みで、同時に複数の解析を行うマルチフィジックスというわけではない。Engysとしては、「シンプルに1つのプラットフォーム(Unified solver Framework)として、HELYX上で複数のモデルや現象を同時に処理できるようにしていく計画」(Campos氏)とのことで、HELYX Coreで、複数のモデルなどを一括してコントロールできるようするつもりだという。

「単層の水と空気の流れ、といった挙動解析であれば2020年中にもできると思うが、それなりの体制が整うには3年くらいはかかると考えている。ただ、我々は内製で、すべての事象の同時解析を可能にしていく方針である。今まではCFDメインであったため、マルチフィジックスとして必要となるほかのモデル、例えば電磁気などはソルバもまだないが、オープンソースというメリットを活かし、OpenFOAMのコミュニティで誰かが開発してくれたものを取り込んだり、といったことで開発速度が向上することも期待している」(同)と、今はまだ開発の初期段階にあるとするが、すでに複数の演算を実行する際に、パフォーマンスを引き出すためのCPUの演算パフォーマンスの割り振り方などの知見は蓄えられてきているとのことで、「この技術は、2~3年後には必要な技術になるという重要性を認識して開発を進めている」ということを強調した。

また、CAEとHPCにフォーカスし、電気自動車(EV)の性能をAI(人工知能)を活用して向上させようというEUのプロジェクト「UPSCALE」にも同社は参画しており、CFD分野におけるAI活用に関する模索も進めているという。「AIの活用は2つの方向性があると考えている。1つはCFDを補完する役割、もう1つはCFDを置き換える役割だ」とのことで、やはり先ごろ開催されたUGMにおいてパートナーがビルを設置する際の風などの影響に対し、どのように配置するのが最適か、という演算をCFDとAIで行った結果、CFDで1時間かかるところを学習が十分になされたAIであれば5秒でほぼ同じ結論を得ることができたとする。ただし、「AIを活用するにしても、なぜそれが選ばれたのか、ということを分かるようにする必要性などは十分に理解している」としており、AIを活用すれば、単に高速に処理を終えられる、というのではなく、CFDのように確かな根拠に基づいた結果が得られる、という形での実現を目指すとしており、UPSCALEを通じて今後の技術的な発展などに向けて取り組みを進めていく予定であるとしていた。