糖尿病はいまや、その予備軍を含めると約2000万人と推計され、糖尿病の医療費は年間で1兆2000億円、人工透析(糖尿病以外も含む)の医療費は同1兆6000億円と推計されており、平成29年度の国民医療費が約43兆円であることから実にその約7%弱を占める。
糖尿病の多くは生活習慣病とされる2型糖尿病だが、こうした2型糖尿病には、食後の血糖値が正常範囲を超えて、異常に高くなる「食後高血糖」の人がなりやすいと言われている。しかし、企業が実施する定期健診などでは、空腹時の血糖値でしか判定しないので、食後の血糖値がどの程度なのか、ということを測定することは難しい。その測定としては、採血による「HbA1c(グリコヘモグロビン検査)」が一般的で、そのほかの検査方法も基本的には採血を行う必要があり、患者の負担が大きい。もし、採血を伴わずに手軽に食後の血糖値が分かれば、糖尿病になる前に、健康管理を図ることができるのではないか、そんなある意味、夢のような機器を京セラが開発を進めている。
「糖質ダイエットモニタ」と銘打たれた機器は、心臓から押し出された血液が一定のリズムを保ち流れていくことで、血圧や血管の大きさなどが変化する脈波を手首で測定し、独自開発のAIアルゴリズムを用いて、糖尿病予備軍の人が、実際にはどの程度のリスクがある状態なのかをスマートフォン(スマホ)上のアプリに表示しようというもの。
もともとの開発のきっかけは、高性能なジャイロを搭載した同社のスマホを手首にあてることで、脈波が図れるということがこれまでの研究開発でわかったこと、ならびに食事を行った後に血管の特性が変化することで、脈波も変化することが研究からわかってきたため。具体的には、食後1時間ほどをかけて糖質が上昇し、その後、3~4時間後に脂質が上昇することが脈波の動きから判明。これまで医療関係の先行研究では、血糖値が高くなると、浸透圧の関係で血管が太くなる可能性や、脂質が上昇すると、粘性が高まり、血流が悪くなることなどの可能性が示唆され、動脈硬化と血液との関係性は指摘されており、測定の際に注意を払う必要があることなどが報告されていたが、今回のような糖質や脂質と血管の関連性を報告したものはなかったという。そこで同社は、血液中の栄養成分を図ることで、そうした疾病を把握できるのではないかと考え、機器の開発を開始したという。
自社の技術の1つであるレーザーなどを用いることも考えたが、コストとサイズ、消費電力などの問題からあきらめた経緯があったというが、高精細のジャイロを活用することで、脈波を計測できることが判明。スマホとの接続や演算処理のためのBluetooth Low Energy(BLE)チップとジャイロ、そしてジャイロが振動を感知するためのバネ、という単純な構造を採用することで、どこにでも持ち運べる携帯機器として利用できる小型かつ軽量な測定器が実現できたとする。
実際の測定は、食後45~60分を目安に機器の電源を入れてスマホの専用アプリと連携した後、手首の脈の場所を事前に確認。そこに機器の突起部をあてるだけで、自動的に8~10秒ほどで、脈波を測定することができる仕組みを採用している。
現在は、日本医科大学 先端医学研究所の南史朗 教授と連携して臨床研究によるデータ収集と、それを活用した推定精度の向上を目指しているということで、2020年中の製品化を目指すとしている。
ただし、製品化に当たっては、量産モデルの確立や、AIの学習データ強化のために数百名規模のデータ収集などを行う必要のほか、アプリケーション側の開発も行う必要があり、同社としては、そうした研究開発に協力してくれるパートナーも随時募集しているという。
このAIアルゴリズムについては、当初は学習データをもとにした推論のみであるが、将来的には個々別々の測定者の特性を把握し、より測定結果が異常なのか、通常の範疇なのか、といったパーソナライズなどについても行っていきたいとしているが、まずは製品を世に出し、実際の需要などの探索を行うことを重視しているとする。
なお、同開発品については、2019年10月15日から本開催となるCPS/IoTの総合展「CEATEC 2019」の京セラブースでも実機が展示されるほか、説明動画なども流される予定だという。
参考文献