日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長 大山訓弘氏

日本マイクロソフトは10月8日、ヘルスケア分野に関する説明会を開催した。業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、ヘルスケア事業の状況について、次のように説明した。

「クラウドの成長率は前年比で53%増、Microsoft Azureの成長率は前年比で176%増と、順調に推移している。Azureに関しては、ヘルスケア分野において浸透してきたことを実感している。また、パートナーと共同で開発したビジネスは20億円の売上を達成している」

マイクロソフトはヘルスケア分野において、「より良い医療のかたちへ」というスローガンの下、「医療現場の改革」「医療の質の均てん化」「ヘルスケア連携」の3点に取り組んでいる。

「医療現場の改革」においては、Microsoft Teamsを活用して、医療機関の生産性向上と働き方改革に取り組んでいる。大山氏は「Microsoft Teamsのチーム連携機能とデータ共有機能を使えば、マルチデバイスで多職種の連携を加速できる」と説明した。

この度、医療従事者向けの働き方改革リーダーコミュニティも設立する。同コミュニティでは、医療従事者の働き方改革を現場で進めるため、 国内の働き方改革リーダー1000名の育成を支援する。リーダー同士がオンラインで情報交換できる場を提供する予定だ。

今年9月より、同社がグローバルで提供している「AI ビジネススクール」において、今年9月より医療機関、医療パートナー向けの無償オンライン講習の日本語版を提供開始した。今後はオンライン講習に加え、利用者の要望を聞いて年間計画を作成したうえで、セミナーなどの集合型研修も組み合わせて提供していく。

  • 今年9月より医療機関、医療パートナー向けの無償オンライン講習の日本語版を提供開始

「医療の質の均てん化」に関しては、AIや複合現実といった最新のテクノロジーを活用して貢献している。「医療の質の均てん化」の最新事例を紹介するため、説明会に、国立がん研究センター 東病院 大腸外科 / 機器開発推進室の竹下修由氏が参加した。

国立がん研究センター 東病院 大腸外科 / 機器開発推進室 竹下修由氏

国立がん研究センター 東病院では、医師の暗黙知を可視化することで、定量的な医療評価の実現を目指している。具体的には、手術の映像をデータベース化することで、医療の定量評価を実現しようとしている。竹下氏は「日本のエキスパートの頭脳を切り出し、ソフトウェアとして海外展開して、日本の技術を世界に押し出していきたい」と語った。

手術動画のデータベースを構築しようとした背景には、がん患者数の増加と外科医の減少がある。こうしたリスクが増加する中、国立がん研究センターでは医療の質を担保していくには、医療の安全性・効率化、トレーニングが必要であり、手術動画のデータベースによってその実現を推進しようとしている。

データベースはMicrosoft Azure上に構築されている。竹下氏はMicrosoft Azureを選んだ理由について、「Microsoft Azureのデータベースに手術の動画と動画に関するタグを保存している。Microsoft Azureはヘルスケア分野にとって必要な情報がそろっているほか、マイクロソフトはヘルスケア業界に実績がある点を評価している」と説明した。メタデータは動画と静止画から生成する。

今回、2つの学会のサポートを受けて、全国の39の施設から300の症例を収集できたほか、日本内視鏡外科学会技術認定審査ビデオとして660の症例を収集し、約1000の手術動画の収集を達成した。収集した個人データは研究利用を目的としたものであるため、今後は産業利用として収集していくという。

  • 国立がん研究センター 東病院の内視鏡外科手術のデータベースにおけるデータの流れ

今後は、全国からデータを収集するとともに、サスティナブルなデータベース運営体制やAIによる手術支援のためのオープンイノベーションの環境を整備していく。また、PoCは大腸がんを対象としていたが、「今後はあらゆる臓器を対象に展開していきたい」と竹下氏は語っていた。

3つ目の柱となる「ヘルスケア連携」としては、ヘルスケア業界での利用に耐えうる「信頼できるクラウドテクノロジー」の実現に注力する。具体的には、患者情報の取り扱いに関する「3省3ガイドライン」に準拠したリファレンスや、製薬会社やバイオテクノロジー企業向けのCSV/GxPに対するガイドラインを公開している。

クラウドサービスを利用する際はデータをデータセンターに預けることになるが、大山氏は「Microsoft Azureに保存したデータは第三者提供に当たらない」と説明した。

Microsoft Azureが医療情報システムに求められるガイドラインに積極的に対応していることなどから、医薬品業界においても採用が拡大しているという。例えば、みらかホールディングスは、2019年9月に提供が開始されたSIEM(Security Information and Event Management)サービス「Azure Sentinel」を採用、Microsoft Azure、Microsoft 365に加え、オンプレミス環境のセキュリティ関連のログも監視・管理し、ログをAIで分析して脅威の挙動予測まで行っている。

さらに、大山氏はヘルスケア関連のスタートアップを支援するプログラムについても説明した。同プログラムは14を超える国・地域で展開されているが、年内にリファレンスアーキテクチャがリリースされる予定だ。

マイクロソフトは2018年9月に、2018年7月から2021年6月の3年間で、ヘルスケア分野におけるクラウドの売上比率を40%から70%に引き上げ、クラウドサービスによる売上を2.5倍に、ヘルスケア分野全体の売上を1.5倍の規模に拡大するという事業目標を発表したが、順調に推移ししているという。