アクセンチュアは10月2日、同社の調査レポート「Breaking Through Disruption: Embrace the Power of the Wise Pivot」の結果を踏まえ、「創造的破壊(Disruption)」は突然発生して、短期間で収束するものではなく、長期にわたって継続するものであることが示されたことを明らかにした。

同レポートは、18の業界にわたる世界の上場企業1万社を対象に行った調査結果を基に作成されたもの。Accentureで通信・メディア・テクノロジー事業グループのグループ最高責任者を務め、2015年から2018年まで同社のCSO(最高戦略責任者)も務めたオマール・アボッシュ(Omar Abbosh)氏は、「どの業界がどの程度の破壊を受けているのかをインデックス化した結果、ほとんどの業界、実に71%の企業が、すでに創造的破壊に直面、またはその脅威にさらされる上状況に陥っていることが判明した。多くの企業がイノベーションを活用できておらず、その結果、従来型のビジネスを成長させることができていない状況が浮き彫りとなった」と、その調査結果を端的に説明する。

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    調査レポートの結果について説明を行ったAccentureのオマール・アボッシュ氏。2015年~2018年にかけて同社のCSOを務め、現在の同社の組織や風土の土台を築き上げた人物でもある。後ろのスライドに映っているのは同日販売が開始された調査レポートを基にして書かれた書籍「ピボット・ストラテジー: 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方」の表紙(原題は「Pivot to the Future」)

では、そうした時代において、企業のリーダーは何をすべきか。同氏は「長期的な戦略計画はうまくいかない時代となり、1度きりのデジタル・トランスフォーメーションはもはや意味を成さないものとなってきた。レガシーから脱却したい、という企業も多いが、その多くが間違った選択をする事態に陥っている。これは、従来の経営手法、ビジネスのルールの多くが、テクノロジー主導型の破壊が起こっていても、そのスピードが遅かった1970~80年代に作られたものであることに起因する。現在、その変化の速度は非常に速くなって、その速度は決して遅くはならない。つまり、これまでの経営手法が有効となることはなくなる」とし、テクノロジーの進化によって得られるはずである潜在的価値と、実際の収益のギャップはなぜ発生するのかについて、潜在的価値そのものがどこで発生しているのか、自分たちの価値を理解して、それを解放することが重要になると指摘する。

ただし、これは見えないものを見ようという話であり、簡単なことではないことも事実。「成功している企業は、あまり狭い視点では見ていない。非常に幅広い示唆をもってビジネスを見ている」と同氏は説明するほか、自身のCSOとしての経験についても、「CSOとして活動した5年間、当初はモノリシックな組織であった企業に、どう新たな価値をデジタル時代に提供するか、ということを考えていた。CSOの任期であった5年の間に約100件の買収を行ったが、アクセンチュアの中にどういった人材を擁すべきか、どういう社風にするべきか、といったことまで考え、社風、社員のスキル、そして考え方の変革に向けた投資として行った。教育にも10億ドルを投じ、プラットフォームを構築。顧客にとって重要となるスキルの取得などを推進してきた。その結果、会社としての時価総額は2015年度で620億ドルであったものが、2017年度で840億ドル、2019年度の現在は1250億ドルまで高めることができた」と振り返る。

また、「すべての企業はイノベーションに投資をしている。大企業が1年間で投じた合計額は3兆2000億ドルにもおよぶ。しかしそのROI(投資利益率)はどうかというと、決して高くなく、14%の企業しかイノベーションによる効果を得られていないという結果も判明した。イノベーションが重要であることは理解して、投資を行った結果が、この数値であり、ここから見えてくるのは、どういった形でのイノベーションがよいのか、それを見極める必要がある、ということが」と同氏は、企業のイノベーションに対する投資姿勢を指摘。テクノロジーを活用して、収益価値を高めることが成功している企業には、「絶え間ない関係構築」「エコシステムの活用」「テクノロジー主導」「新たな人材管理の導入」「データ主導型の事業展開」「包摂的なアプローチ」「インテリジェントな資産管理」という7つの戦略があることを導き出すことができ、「自社が成功する形でそれらを適応させている」とする。

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    潜在的収益価値は、テクノロジーの進化によって本来手にしていてもおかしくない潜在的な収益価値であり、既存ビジネスを頑張って成長させた場合との差が潜在的収益価値のギャップということとなる。このギャップをいかになくしていくか、という取り組みには7つの戦略的アプローチが存在しているという

さらに同氏は、「今回の調査で2つ、成功のために必要なものがあった。『イノベーション』と『トップレベルでの勇気』である。CEOが勇気をもって変えなければ変化は起きない」と指摘すると、アクセンチュアの戦略コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 マネジング・ディレクターである中村健太郎氏が「新たなテクノロジーの時代、デジタル時代に求められる新たな戦略、新たなルールを理解して、ビジネスコンセプトを纏め上げ、どのように昇華させるのか、ということが重要になってきた」と補足。

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    日本についての補足説明を行ったアクセンチュアの中村氏

「日本にこうした動きが当てはまるのか、企業価値の側面から見ると、2009年と2019年で比較しても、トップ10の顔ぶれはほとんど変っていない。既存企業が良くがんばっている、といえるかもしれないが、テクノロジーをレバレッジとした変革がうまく進んでいないともいえる。その証拠が、2019年に時価総額グローバルトップ50に入っているのは45位にトヨタ自動車が入っているのみ。こうした結果に、多くの日本企業がグローバルレベルで起こっている変革についていけず、取り残されているという危機感を抱く必要がある」とも指摘した。

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  • 2009年と2019年のグローバルと日本における時価総額ランキング。日本企業は時価総額そのものは高まっているものの、顔ぶれはそれほど変わっていない

では、そうしたグローバルレベルの変革にどう企業は対応していくべきか。中村氏は、「日本の大企業の多くが戦後や高度成長期に創業して、社是もそうした時代背景をもとに作られたものが多い。良い商品を安く作って消費者に届けるといったような崇高なビジョンが多いが、それはものが欲しいが買えなかった、良いものを作りたかったが作れなかった時代に必要とされたもので、現代はというと、ものは余っており、ある程度の品質のものであれば手軽に手に入ってしまう。結果として、その商品やサービスを使って、どういう生き方をしたいのか、といった方向に消費者のニーズがシフトしていっている。これに対応するためには、ビジネスレベル、戦略レベルだけでなく、企業としての存在意義から見直す必要があると感じている。既存の組織体制の中で、何を変えるのか、という話は良くあるが、企業の根幹をなすミッション、ビジョン、バリューにまでさかのぼって検討する必要がある」と、企業としての在り方そのものにまで踏み込む必要性を強調。そうした検討を進めていく手助けをアクセンチュアとしても行っていければとした。

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    モノのサービス化が求められる時代において、単に良いモノを作るという企業の存在意義から真に脱却するためには、企業の存在意義そのものから見直す必要もでてくる。それをトップが受け入れ、実際に行動に移せるかがこれからのトップに求められる資質の1つとなるという

なお、アボッシュ氏は、そうした変革を実現するために必要なものとして、「実行のための筋力。アイデアをどう現実に落とし込むか。企業のCEOたちと話すと彼らはその重要性には気づいている。しかし、単にイノベーションを起こすための組織を作って、人を雇っても、それを受け入れるための文化や環境そのものを作り出せなければ、そうした人材はより居心地の良い別の企業に移ってしまうことだってある。そうした新たな人員を魅了するためには働く場所の意味を変えないといけない。そのためにはリーダーとしても個人を魅了できる人物である必要がある。新たな仕事をできる人でなければいけない。企業としてそういう人材をひきつける仕組みをどう作っていくかは、そうしたリーダーの資質によるところが大きい。また、新たなことを行おうとすればスキルを持つ人材がバラバラの事業部に分かれていることもある。それを1か所にまとめて、スキルを共有したり、スキル活用のためのインセンティブをどう生み出すか。マネジメントも変えないといけない。顧客はその企業の広告が出ているから買うという時代は終わった。顧客にとって美しい経験をどうやって作り出すかが重要になってくる。そうしたユーザー・エクスペリエンスの提供は、営業やマーケティングの責任ではなく、チーフエクスペリエンスオフィサー(CXO)のような全体を見渡せる存在の責任になってくるし、その背後にはそうした新規事業を疎ましく思う旧来の中核事業をどう新たな価値に向けて変革させていくか、という課題なども含まれてくる」と、トップ層の意識と熱意が重要であると指摘。変わるという行動は大変なエネルギーを必要とするが、それを維持し続けていかなければ、創造的破壊が常に起こり続け、モノのサービス化が求められる現代で、グローバルで勝ち抜くことはできないだろうとしていた。

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    未来を掴むためには行動するための勇気が必要というアクセンチュアからのメッセージ