京セラは10月2日、新たに開発したクレイ型リチウムイオン蓄電池を搭載した住宅用定置型蓄電システムを「Enerezza(エネレッツァ)」として、2020年1月より販売を開始することを発表した。
Enerezzaという名称は、エネルギー(Energy)とイタリア語で優しさを意味する「Tenerezza(テネレッツァ)」を掛け合わせた同社の造語で、2019年11月より、住宅用太陽光発電設備の固定価格買取制度(FIT)における10年間の買取期間が満了となるユーザーなどが、新たに自家消費へとしやすいように、「長寿命」、「高安全性」、「低コスト」というユーザーに対する優しさを提供することを意図してつけられたという。
独自のクレイ型リチウムイオン蓄電池は、京セラも出資している米国のベンチャーの24M Technologiesが開発した電池技術を基に、京セラが量産プロセスなどの開発を行って実現したもの。一般的な電解液を用いたリチウムイオン電池は電極活物質を接着する「バインダー」を用いる必要があるが、これがリチウムイオンの伝導性を阻害することが知られている。クレイ型では、電解液と粘性のある粒子(スラリ)を混ぜた材料を電極活物質とすることで、バインダーを不使用化することが可能となったほか、その電解液も幅広い温度特性のものを採用し、かつ電池の制御技術も住宅向けのものを専用に開発することで、電池寿命保障を従来の10年から15年に長寿命化することに成功したという。
また、活物質を粘土化したことで、電極の厚さを増すことができるようになった結果、セパレータや集電箔の使用枚数も削減することに成功。部材コストを25~40%、平均にして30%ほど削減することができるようになったほか、生産プロセスとしても、電極形成工程を簡略化できるようになるため、設備投資コストなども抑えられるようになり、システムとしての値段も安価に抑えられるようになるとする。
蓄電池ユニットは1台あたり定格容量が5.0kWhで、最大3台(15.0kWh)まで接続して使用することが可能。ユニット内には蓄電池モジュールが設置され、そこにスタックセルが48枚搭載される。
実際のクレイ型リチウムイオン蓄電池は、正極と負極の間に設置したセパレータと外装フィルムで包まれたユニットセルとして搭載されており、これにより正極と負極が完全に分離され、内部でショートすることがなくなったほか、電極材料として安全性が高いリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を採用することで、発火などのリスクを可能な限り低減させている。
同社によれば、今回採用した構成はスタンダードのクレイ型リチウムイオン蓄電池の技術であり、例えばセパレータを固体電解質セパレータにすることで、リチウムイオンだけが正極と負極の間を行き来できるようになるため、その結果、正極材料と負極材料をそれぞれの性能に特化したものに変えることで、より高いエネルギー密度をもった蓄電池を実現できる可能性があるとしており、より多くの分野で活用されるような技術として成長させていきたいとしていた。
なお、Enerezzaの価格はオープン。2019年中に大阪府大東市の大東事業所にパイロットラインを設置し、2020年1月以降に少量限定販売を開始。生産性などの確認を行った後、2020年の秋に野洲工場に年産2万台規模の生産ラインを構築して、本格的な事業展開を開始する予定としている。