国立天文台などの国際研究チームは2019年9月26日、「すばる望遠鏡」などを使った観測により、地球から130億光年かなたの宇宙に、12個の銀河からなる原始銀河団「z66OD」を発見したと発表した。

これは現在知られている中で最も遠い原始銀河団で、宇宙が誕生してから8億年の時代の初期宇宙に、活発に星を作りながら成長する原始銀河団が存在したことを示す、重要な成果だとしている。

この研究成果は、9月30日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載された

  • すばる望遠鏡

    今回発見された、観測史上最も遠くにある原始銀河団「z66OD」の擬似カラー画像。青色の部分がz66OD原始銀河団で、青色の濃さは原始銀河団を構成する銀河の天球面密度を表している。拡大図の中心にある赤い天体が、原始銀河団に存在する12個の銀河 (C) 国立天文台/Harikane et al.

観測史上最遠の原始銀河団を探して

この宇宙には、10個程度の巨大な銀河を含む、1000個程度の銀河が集まって重力的に束縛しあっている「銀河団」という天体が存在している。この銀河団は宇宙で最も質量の大きな天体であり、銀河団同士はお互いに結びつき合ってさらに大きな構造(宇宙の大規模構造)を作っている。このことから、宇宙の構造を支える屋台骨ともいわれる。

これまでの観測で、90億年前から現在までの宇宙の中に、約1000個の銀河団が発見されている。

こうした銀河団が、宇宙の138億年の歴史の中でどうやってできたのかは、まだわかっておらず、天文学における重要な問題となっている。

その謎に迫るために、天文学者たちは「原始銀河団」を探し続けてきた。原始銀河団とは、銀河団の祖先と考えられている天体のこと。銀河団より古い時代の宇宙に存在し、10個程度の銀河同士がそれなりに密集しているものの、それぞれが重力的に束縛されていない。この原始銀河団に、徐々にガスやダークマターが集結することで、やがて銀河団に成長すると考えられている。

これまでの観測で、原始銀河団は、約100億年以上前の宇宙に200個ほどが見つかっている。これまでの最古の記録は、「すばる望遠鏡」が2012年に発見した「SDF銀河団」で、129億年前のものとされる。

そして今回、国立天文台の播金優一氏(日本学術振興会特別研究員)が率いる研究チームは、「このような原始銀河団はいつの時代からあったのだろうか?」という疑問を持ち、より遠くの宇宙を調べることにした。

しかし、SDF銀河団より昔、つまり約130億年前の宇宙を探そうとすると、130億光年先を見る必要がある。非常に遠いため、原始銀河団は約25等級ほどの暗さでしか見えない。これは、肉眼で見える限界とされる6等級の天体の、4000万分の1の暗さにもなる。しかも、原始銀河団は約1平方度の範囲に1個ほどしかないと考えられており、全天から見つけるのは至難の業である。

そこで研究チームは、すばる望遠鏡の最新撮像装置である「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC:Hyper Suprime-Cam)」を使って作られた、広大な領域の宇宙の地図をもとに、原始銀河団の探査を行った。HSCは1.4平方度の範囲を一度に見られる能力をもっており、原始銀河団を効率よく探すことができる。

研究チームが注目したのは、130億年前の原始銀河団の中の銀河から届いていると考えられる、水素原子が発する輝線(原子や分子から放射される特定の波長の光)である。遠くの宇宙から光が届く場合、宇宙膨張による赤方偏移をするため、波長が引き伸ばされて地球に届く。つまり、その波長を観測すれば、遠くからやってきた宇宙の光を捉えることができる。

そこで研究チームは、その範囲の波長を捉えることに特化した、「NB921」と呼ばれる特殊なフィルターを使用。その結果、くじら座の方角に、銀河が予想に比べて15倍密集している原始銀河団の候補「z66OD」を発見した。

そして、ハワイにあるケック望遠鏡とジェミニ北望遠鏡を使い、この天体までの正確な距離を測るために分光観測を実施。その結果、地球から129.7億光年先の位置に、85万光年の範囲の中に12個の銀河が存在することを突き止めることに成功した。

この分光観測を行った小野宜昭氏(東京大学宇宙線研究所 助教)は、「12個の銀河は3次元図の中でも密集しており、この観測結果からz66ODは、129.7億光年かなたの宇宙に存在する原始銀河団であることがわかりました。これはSDF原始銀河団の記録を約1億光年ほど塗りかえる、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です」と語る。

さらに研究チームは、すばる望遠鏡、イギリス赤外線望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡の観測結果をもとに、z66ODの中では驚くほど激しく星が生まれていたことも発見。詳しい分析の結果、z66ODの中の銀河では、同じ時代、同じ重さのほかの銀河に比べて、5倍もの星が生まれていることがわかったという。

なぜ、それだけ活発なのか。研究チームのメンバーの一人、ダルコ・ドネフスキー氏(イタリア・先端研究国際大学院大学研究員)は、「z66ODは質量が大きいために、星の材料であるガスが周りから大量に供給され、星の生まれる効率が高いのかもしれません」という仮説を立てている。

  • 銀河

    今回の研究によって得られた銀河の分布の3次元図。黒い点が銀河の位置を示し、青色が濃いほど銀河の密度が高いことを示している。赤色の矢印の先がz66OD。図の上方向に伸びる軸が奥行きを、手前と右方向に伸びる軸がそれぞれ赤経・赤緯を表している (C) 国立天文台/Harikane et al.