南極上空のオゾンホールが例年の半分の面積にとどまっていることが分かった。衛星観測による結果で、気象庁が27日までに明らかにした。9月7日の時点で面積の最大値は1100万平方キロメートル。2018年の最大値は9月20日の2460万平方キロメートルだった。8月末から南極上空の気温が異常に高くなったのが原因とみている。今年の確定最大値は10月20日ごろに発表する。

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    灰色の領域(220m atm-cm以下)がオゾンホール(白色は欠測)。2018年は南極大陸をほぼすっぽりと覆っている(左)。2019年はオゾンホールの形が細くゆがみ、南極半島と南米大陸付近に分布している(右)。赤い▲印は日本の昭和基地(いずれもNASA提供のデータをもとに気象庁が作成/提供)

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    オゾンホールの面積の推移。2019年(赤線)は9月以降、面積が広がらず、2018年(橙色)、最近10年間(2009~2018年)の平均値(黒色)とは大きな差になっている(線が途切れているのは欠測)。濃い紫色の領域は最近10年間の最大値と最小値の範囲、緑色の破線は南極大陸の面積。(NASA提供のデータをもとに気象庁が作成/提供)

オゾンホールは南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、1980年代初めに見つかり、オゾン層に穴の空いたような状態であることからその名が付いた。 毎年8~9月ごろ発生して急速に発達し、年末までには消滅するという変化を繰り返している。ホール内は有害な紫外線が強く、皮膚がんや白内障のリスクが高まることが知られている。

オゾン層の破壊を重く見た国際社会は1987年にモントリオール議定書を成立させ、原因物質であるフロン類の生産・使用を厳しく制限した。2000年に最大の2960万平方キロメートルを記録したオゾンホールは近年漸減傾向にあり、議定書の効果と見られている。しかし、1980年代の水準に戻るのは今世紀半ば以降と予測されていたため、今回明らかになった現象は研究者の間で議論になりそうだ。

オゾン減少のメカニズムはこうだ。冷蔵庫などの冷媒に使われていたフロン類が上空の紫外線で分解されて塩素原子が生成される。この原子が南極上空の零下78度以下でできる極域成層圏雲(PSC)と呼ばれる特殊な雲の表面でオゾンを連鎖的に破壊する。塩素原子は地球上に遍在するが、オゾンホールが発生するには南極のPSCがなければならない。

今年の南極は8月末に「成層圏突然昇温」と呼ばれる気温上昇が始まった。気象庁が衛星、ゾンデ、地上観測のデータを再解析したところ、9月中旬の気温は零下50度まで上がったという。同庁は「成層圏突然昇温の原因は不明だが、PSCの発達が妨げられたと見られる。これほどホールが小さいのは1980年代半ば以降初めて」と説明する。

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    南極上空(50hPa)における南緯60度以上の領域平均気温の推移。2019年(赤線)は9月以降、最近10年間(2009~2018年)の平均値(黒線)から大きくはずれている。 灰色領域は最近10年間の標準偏差の範囲、紫色領域は最近10年間の最大値と最小値の範囲(気象庁の長期再解析(JRA-55)をもとに作成/提供)

また、オゾンホールは例年、南極大陸の上空にほぼ同心円状に存在する。去年9月には大陸をすっぽりと覆うように分布していた。しかし、今年、ホールは南極半島と南米大陸に偏っており、最小値を示している場所も2カ所に分かれている。気象庁は「これは今まで見られなかった現象だ」としている。

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    オゾンホール面積の年最大値の推移。2019年が1100万平方キロメートルにとどまれば、1982年の水準に戻る(NASA提供のデータをもとに気象庁が作成/提供)

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