過去5年間は観測史上最も暑く、温暖化により深刻な影響が世界中で出ているとする報告書を世界気象機関(WMO)がまとめた。報告書によると、こうした事態は温室効果ガスの排出量削減対策が十分なされていないためと警告し、23日にニューヨークで開かれた国連の「気候行動サミット」で報告された。このサミットでは77カ国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする長期目標を掲げ、来年本格始動するパリ協定の下で対策を強化することを表明した。
報告書は「2015‐2019年の世界気候」と題し、5年間の世界の気温や温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)など、温室効果ガス排出量の増加や海面上昇など温暖化の影響実態などをまとめている。それによると、現在の世界の平均気温は19世紀半ばと比べて1.1度上昇した。特に2015年から現在までの平均気温はそれ以前の平均気温より0.2度上昇。過去5年間のCO2濃度の上昇率はそれまでと比べて20%高いと明記した。
また、気温上昇は海面上昇をもたらし、過去5年間は海面が年平均5ミリも上昇。これは1993年から現在までの年平均3.2ミリ上昇を上回るペースとしている。さらに、南極やグリーンランドの氷床で氷が大量に溶けており、これが海面上昇に拍車をかけていると警告した。
報告書はこのほか、温暖化による熱量増加の90%以上が海に吸収されているが、2018年の海洋蓄熱量は観測史上最高だったというデータを紹介。海洋は世界の気象・気候に大きな影響をもたらすことを前提に、2015年以降の世界の熱波現象は温暖化によるもので、世界中で大きな被害を出している大型台風やハリケーンなどの熱帯低気圧も温暖化に密接に関係があるとしている。
温暖化防止の国際的枠組みのパリ協定は、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指している。今回発表された過去5年の世界の平均気温データは既に「2度未満」目標の半分以上、温暖化が進行してしまったことを示している。
WMOのペッテリ・ターラス事務局長は報告書の中で「気候変動の原因と影響は減少せずにむしろ増大し続けている」とした上で「温室効果ガス排出源の中でも特にエネルギーの生産や輸送などに伴う排出量の削減が極めて重要だ」と指摘している。
WMOの報告書は気候行動サミットに向けてまとめられ、温暖化の現状に対する強い危機感をサミットに参加した各国首脳に訴えた形だ。
環境省関係者や国連の広報によると、気候行動サミットでは77カ国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする長期目標を掲げ、来年本格始動するパリ協定の下で対策を強化することを表明した。また60カ国以上の首脳ら代表が自国の対策強化案などについて発言した。パリ協定からの離脱を表明している米国のほか、日本はこれらの国に含まれていない。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は「(このままでは)今世紀末には少なくとも3度も上昇してしまう。世界の気候の緊急事態に我々は負けつつあるが、(今後の大胆な対策によっては)まだ勝ち目はある。このサミットは交渉するためのものではなく行動するためのものだ」などと強調した。
サミットの開幕式には、世界に広まっている若者の抗議活動の先駆けとなったスウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥンベリさんが登壇した。温暖化の深刻な影響は今後一層大きくなると予測されており、特に今の若い世代が将来打撃を受けることは確実とされている。グレタさんはこうした若い世代の危機感を代弁した。
米メディアなどによると、グレタさんは各国首脳らを前に、温暖化の危機は30年以上前から指摘されたにも関わらず世界は十分な対策を取れていないことから「あなたたちはお金のことや永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり」などと「大人世代」の責任を厳しく指摘。温暖化により世界の多くの人々が苦しみ、生態系は崩壊しつつあることを挙げて「私たちはあなたたちを注視している」「(対策に失敗して)私たちを裏切るのなら絶対に許さない」などと強い口調で訴えた。
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