清華紫光集団がDRAM事業への参入を明らかにしたばかりの中国だが、今度は、安徽省合肥市地方政府が地元投資グループと共同でDRAMの生産に向けて準備を進めてきたChangXin Memory Technologies(CXMT、旧社名Innotron)が、 8Gビット LPDDR4およびDDR4 DRAMの生産を2019年末までに開始する予定であると複数の中国、台湾メディアが報じている。
中にはすでに生産を開始したとの報道もあり、予定を早める動きもあるようだ。300mmウェハかつ19nmプロセスを採用し、一部では月産2万枚規模で生産を開始し、2019年末までに月産4万枚まで引き上げ、さらに近い将来には、第一期工事として完成させたFab1のフルキャパシティである月産12万5000枚まで到達するとの見方もでている。これまでに投じた金額は1500億人民元で、中国国内のスマートフォン市場を中心としたモバイル機器向けに年内にも製品の出荷を開始する見通しだという。
どこからDRAMの製造技術を入手したのか
ところで、CXMTは一体どこからDRAMの製造技術を入手したのだろうか。
CXMTは、以前はInnotronという社名で、台Inotera(現Micron Memory Taiwan)のDRAMエンジニアを集団で採用し、DRAM開発を行ってきた。しかし、中国内のもう一方の新興DRAMメーカーであるJHICCがMicronの技術を台UMC経由で不正入手したとの理由で、米国政府は同社への米国製製造装置および部品の輸出を禁止したこともあり、CXMTは、同様の制裁を恐れてInoteraから引き抜いたエンジニアたちによるDRAMの設計・製造技術を利用することをあきらめたとされており、Inoteraを連想するInnotronという社名も変更していた。
その間、経営者の入れ替えや方針変更などで計画は大きく先延ばしされ、さまざまなうわさが流れた。一時は、Samsung Electronicsからリクルートした技術者によって設計変更しようともしたが、最終的には、奇想天外ともいえる手法でDRAMの量産にこぎつけたようである。
去る9月19日に深センで開催された中国フラッシュマーケットサミット(CFMS)2019でCXMT副社長であり、未来技術評価研究所所長であるPing Erjun氏が「DRAM Technology Trends and Industry Applications」と題した講演をおこない、その中で、今回のDRAM開発にあたっては2009年に倒産した独Qimondaの技術を採用したことを明らかにした。
具体的にはPing氏は「Qimondaは、従来からトレンチ技術を採用してきたが、業界の主流になりつつあったスタック技術を活用した46nm DRAM技術を2008年には開発していた。しかし、2008年の金融危機(いわゆるリーマンショック)によりDRAMの価格が下落し、その製品が日の目を見る前にQimondaは2009年に倒産してしまった。今回、私たちは、Qimondaの遺産である46nm DRAMを19nmへとプロセスをシュリンク(縮小)して、製品化することに成功した。世界中からリクルートした英知と最新の半導体製造装置のおかげである」と述べている。また同氏は、CXMT未来技術評価研究所所長としての立場から、将来的には、HKMG(high-k/Metal Gate)、EUVリソグラフィ、GAA(ゲートオールアラウンド構造)などの新技術を採用する方向で評価・検討していることも明らかにした。
中国は、トランプ米大統領が目の敵にする「中国製造2025」計画にそって半導体の自給自足体制を敷こうとしており、今回のCXMTのDRAM製造開始も国策に沿ったものである。
米国政府の制裁で稼働中止に置きこまれ、一時は倒産もうわさされた、もう一方のDRAMメーカーJHICCも復活の兆しを見せており、清華紫光集団もDRAM製造に参入を表明して、年内に重慶でファブ建設を始める。一方、紫光集団傘下のYMTCは、年内に独自技術であるXtackingを用いた64層3D NANDの量産を開始する予定で、今後、96層をスキップして128層開発に取り組み、先行するトップ企業群に追いつく戦略を立てている。
中国がディスプレー産業に次いで半導体メモリ産業でも2020年代に世界の中心になる可能性が高まってきたといえるだろう。一方、先行する韓国勢は、技術力で圧倒的に差をつける「超格差戦略」で対抗しようとしている。SK Hynixは、韓国龍仁(ヨンイン)にあらたに巨大な敷地を確保し、近い将来、4棟のファブを建設する計画を立てているほか、Samsungも韓国平澤(ピョンテク)の新キャンパスでさらなるメモリファブの増設をすることで、生産能力を向上させ、シェアを死守する方針である。中国製の生産体制が整う今後は、中国勢と韓国勢による半導体メモリにおける競争の行方に注目する必要がでてくるだろう。