最近はインターネット上に情報があふれており、これらの情報をフォローしていれば動向が掴めると一見思われがちであるが、現実の世界はとてもダイナミックでありインターネット上の情報はその一面を切り取ったものでしかない。例えば、2015年ころから海外で話題になり始めたMicro LEDは当初は日本ではなかなか情報が入ってこなかったが、ここ1~2年で多くの情報がインターネット経由でもたらされる様になり、最近は誰しもがMicro LEDを語れる様になってきた。しかし、インターネットからもたらされる情報は真の姿を正しく伝えているだろうか? 筆者は世界各地で開催されるさまざまなイベントや会議に参加しているが、そこで感じるのは、インターネット上の表面的な情報とダイナミックな現実のギャップである。
電子機器の製品トレンドやデバイスのトレンドの指標となるのが、年初のCESや毎年5月に米国で開催されるSID国際会議などであろう。筆者もこれらのイベントに参加しているが、現実の産業動向が映し出されるのは、こうした世界規模の大型イベントだけではなく、その前後にグローバル、特にアジア各地で開催される展示会や会議などのイベントで垣間見える、各地域に根ざした多数の企業の地道な活動である。一例として、2019年5月に開催されたSIDの後に筆者がフォローした中のいくつかのイベントの様子を図1から図5にあげてみた。それぞれのイベントの中での話題のいくつかを筆者の視点で切り出してきたものである。これらの個々の詳細な説明は割愛するが、全体を眺めていただくと日本にいては判らないさまざまな動きがあることがお判りいただけるかと思う。
例えば、CESやInfocommと言った欧米での大きな展示会があり、インターネットでも大手企業の最新技術や製品が報道されている。中国ではこれらの展示会の中国版がここ数年開催されるようになりその規模も年々大きくなっている。これらの展示会は欧米の展示会の模倣だという見方もできるが、参加してみると中国ローカルの企業が数多く出展しており、最先端技術や製品をいち早く市場に投入すべくしのぎを削っている状況が良く判る。その背景には、すでに中国で構築されている産業インフラを背景にした新事業への素早い取り組みが垣間見える。
中国でこの様な展示会が頻繁に開催される背景には、大きな市場が目の前に存在しているためであり、海外からも多くの企業が出展していることからもうかがえる。例えば、シャープやJDI(ジャパンディスプレイ)も、日本では会社の経営状況のニュースしか聞くことができないが、中国の展示会では高い技術力のアピールと巨大市場に入り込もうと必死に努力している姿を目の当たりにすることができる。
ディスプレー技術では、フレキシブルOLED(有機EL)で中国メーカーの積極的な展示が見られるだけでなく、今後の注目株であるMini LEDやMicro LEDの展示や併設の技術セミナー、さらには専門会議などでの議論もホットになっている。日本では「マストランスファー」技術をベースとしたアッセンブリー技術が取り上げられて、その難しさを強調したディスカッションをよく耳にするが、現実にはさまざまな工程がありそれぞれに課題がある一方で、それらに対応するためのさまざまな手法も提案されており、「いかに新しい技術を早く事業化するか」という視点での積極的な議論がなされている。
究極のMicro LEDだけではなく、サイネージ用のLEDやCoB実装を前提としたMini LED、さらにはLCDバックライト用の直下型LEDなどのさまざまな技術や使い方を、それぞれを得意とする企業が提案し、それぞれの技術進歩が絡まってLEDディスプレー全体として進化していく状況が理解できる。
こうした視点でまとめた産業動向を図6に示す。このポイントは、多彩なディスプレー技術が競い合いって成長し拡大していることと、その土俵がすでにグローバルに広がっており、その情報をインターネットに頼るのではなくそれぞれの企業の方々が自身の目で見て正しく掴むことが企業戦略にとって重要であるということであろう。
著者プロフィール
北原洋明(きたはら・ひろあき)テック・アンド・ビズ代表取締役
日本アイ・ビー・エムにて18年間ディスプレー関連業務に携わった後、2006年12月よりテック・アンド・ビズを立ち上げ、電子デバイス関連の情報サービスを行っている。
WW各地域の関連協会や企業とも連携を取りながら現地イベントのサポートやビジネスマッチング、および現地の生の情報を収集して日本企業にフィードバックし的確なビジネス判断をする為のサポートなどをしている。
直近では、DIC北京サミット2019会議と武漢の最新三工場を巡るツアーのサポートを予定している。