2017年9月1日付けでソニーより電池事業を引き継ぎ、福島県郡山市でリチウムイオン2次電池の生産を行っている村田製作所。東北村田製作所に属する郡山事業所の歴史は古く、約30年ほど前の1991年、世界で初めてリチウムイオン2次電池の量産を開始した工場としても知られる。なぜ、村田製作所は同工場でリチウムイオン2次電池の生産にこだわるのか。同社はこのほど、同工場でのリチウムイオン電池の生産の様子などを公開したが、そこで見た取り組みから同社の目指す電池事業の姿を考えてみたい。
燃えないリチウムイオン2次電池を製造
村田製作所は、電池事業を蓄電事業の片翼としており、もう片翼のパワーコンディショナ(パワコン)の事業と併せる形で、社会貢献を目指してきた。「一日持たなかったスマートフォン(スマホ)の電池が数日持つようになったり、電気製品の電源コードがコードレス化したり、家庭用、産業用の区別なしに、蓄電池を通じて社会に貢献してきた。世の中で環境問題に焦点があたるにつれて、電池市場は拡大してきたが、その一方で、国際的な競争にさらされる状況になっている。そうした市場環境の中で、我々の電池を欲してもらえる顧客が求める品質や性質を達成することをポリシーとしている」と、東北村田製作所の西田吉宏 事業所長は自社のスタンスを説明する。
そんな同社の蓄電事業は、安全性をもっとも重視してビジネスを行っているという。これは、旧ソニー時代の2009年にオリビン酸リン酸鉄リチウムイオン電池「FORTELION」を実用化したことが大きく関係している。
リチウムイオン電池を実現する材料は正極、負極、電解液などの各コンポーネントにいろいろな材料が用いられているが、一般的なリチウムイオン電池は、正極がリチウム、コバルト、酸素のレイヤ構造で、その構造上、過充電時に発生した熱により構造が崩壊し、酸素が放出されて、それにより熱暴走が加速、さらに構造が崩壊し、酸素が放出というスパイラルに陥り、やがて発火に至る。一方、オリビン構造はリンと酸素が強固に結合するため、過充電時に熱が上がるが、リンが酸素を保持することで構造が安定的に維持されるため、発火には至らない、という特徴がある。
ただし、ほかの正極と比べ、エネルギー密度が低い、という弱点があるため、リチウムイオン電池が多く用いられるコンシューマ用途などには向かないというデメリットもある(そのため、同工場でも三元系などほかの正極材料を用いたリチウムイオン電池の製造なども行っている)。しかし、発火しないほか、構造が安定していることによる長寿命というメリットから、主に業務用蓄電池であったり、非常用電源、瞬停に対するリスク低減などの用途で活用されており、2019年6月には家庭用蓄電システムの販売も開始した。
「郡山事業所は設計・開発拠点でもあるため、各種の安全性試験も行う施設も整っている。安全に使うためのテストは必須で、かなり想定外のような状態も想定してテストを行っている。村田製作所としても、各種材料についての知見があり、安全性試験の仕組みを通じて、顧客に最適な電池の紹介や、正しい電池の使い方のアドバイスなども行っている」(村田製作所 モジュール事業本部 エナジーシステム統括部 統括部長の高野康浩氏)とのことで、自動車のブレーキ用補助電源など、安全性が重視されるアプリケーションへの提案なども積極的に進めていきたいとしている。
実際、今回の工場公開においても、リチウムイオン電池に釘をさして短絡させ、発火するかどうかの試験が公開されたが、三元系の正極材料では発火、最大400℃程度まで温度が上昇したものの、オリビン酸リン酸鉄系の正極材料では100℃を超すところまでは上昇するものの、発火せずに、安定した状態を保つ様子を見ることができた。