ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは2019年8月22日、無人の「ソユーズMS-14」宇宙船を搭載した、「ソユーズ2.1a」ロケットの打ち上げに成功した。

ソユーズ2.1aを使ってソユーズMSを打ち上げるのはこれが初めてで、宇宙飛行士を乗せた飛行の前に、緊急脱出システムなどの試験をおこなうことを目的としている。

また、この機会を利用して、将来の新型補給船の開発に向けた、新しい航法システムや姿勢制御システムの試験も実施。さらに、遠隔操作ができるヒューマノイド型ロボットも搭乗している。

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    無人のソユーズMS-14宇宙船を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ (C) Roskosmos/Energiya

ソユーズMS宇宙船

ソユーズといえば、ソ連/ロシアの伝説的な有人宇宙船、そしてロケットである。宇宙船もロケットも、1967年のデビュー以来、さまざまな改良型や、特定のミッションのための改修型などが開発され、数え切れないほど多くの種類がある。

そのなかで、宇宙船としてのソユーズの最新型は「ソユーズMS」と呼ばれる機体である。MSといってもモビルスーツの略ではなく、ロシア語で「改良したシステム」を意味する「modernizirovannyye sistemy」の頭文字から取られている。

基本的な構造は従来と変わらず、たとえば、宇宙飛行士が滞在するための「軌道モジュール」、打ち上げや帰還時に飛行士が乗る「降下モジュール(帰還カプセル)」、そして太陽電池やスラスターなどがある「機械モジュール」の、3つのモジュールから構成されている点や、その3つが積み重なって串団子のようになっている特徴的な姿かたちなどは同じである。

ソユーズMSの改良点は、まさしくその名のとおり"システム"にある。たとえば、国際宇宙ステーション(ISS)に自動でランデヴー・ドッキングするための「クールス(Kurs)」と呼ばれるシステムが、旧式の「クールスA」から、新型の「クールスNA」へと改良された。

旧式のクールスAは、アンテナが可動式、展開式で、もし展開に失敗すればドッキングできなくなる可能性もある。また、クールスAの電子機器を製造しているのはウクライナの企業であり、ロシアにとって入手や使用がしづらいという問題もあった。とくにウクライナ独立後、同社はロシアに対してクールスAの価格を吊り上げるようになり、そのためロシアは、一度使用したクールスAの電子機器を取り外し、スペースシャトルで持ち帰って再使用するといったこともおこなっていたほどである。

そこでロシアは、クールスAと互換性をもたせつつ、部品をすべてロシア製にし、かつ展開式アンテナを減らした「クールスNA」を開発。あわせてコンピューターの性能が向上し、また消費電力もサイズも小さくなっている。

また、自分の正確な位置や速度、軌道を自律的に知ることができる「ASN-K」というシステムを新たに搭載。従来は地上のアンテナから見える範囲にいなければ、ソユーズの正確な位置や速度がわからなかったが、ASN-Kは米国の全地球測位システム「GPS」や、ロシア版GPS「GLONASS」を使い、自律的に知ることができるようになった。また、宇宙船が地上に帰還したあともGPSやGLONASSの電波を受信することができるので、正確な着陸地点を回収チームに伝えることもできるようになっている。

さらに、ASN-Kを使うことで、打ち上げからISSに到着するまでの時間を、従来の2日間~6時間から、2~4時間にまで短縮することも可能。すでに、同様のシステムを搭載した無人の「プログレスMS」補給船で何度か試験がおこなわれており、安全性などが確立されれば、いずれ有人のソユーズでも取り入れられる予定となっている。ソユーズの船内は狭いため、飛行時間を短縮できれば、宇宙飛行士の負担軽減につながる。

このほか、装置をロシア製にし、また通信衛星を使うことで通信可能時間を大きく増やした新型の通信システムを搭載したり、太陽電池パドルや姿勢制御スラスターを改良したりなど、目立たないながらも大幅な進化を遂げている。

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    国際宇宙ステーションに接近するソユーズMS-14 (C) Roskosmos

ソユーズ2.1aロケット

そのソユーズを打ち上げるソユーズ・ロケットも、長年の活躍のなかで数々の改良を重ねてきている。

現在、ソユーズ宇宙船を打ち上げているのは「ソユーズFG」というロケットで、世界初の大陸間弾道ミサイルであり、1957年に「スプートニク」を打ち上げた「R-7」ロケットから、基本はそのままに、エンジンの改良などで打ち上げ能力を向上させたロケットである。初打ち上げは2001年におこなわれ、これまでにプログレス補給船やソユーズ宇宙船をはじめ、多数の衛星を打ち上げてきた。

一方で、2006年からは「ソユーズ2」という新型ロケットがデビュー。ソユーズ2は、見た目は従来のソユーズ・ロケットとほとんど同じではあるものの、エンジンを改良したり、電子機器を近代化したりし、より効率的な衛星打ち上げを可能にしており、ソユーズMSと同様、目立たないながらも大幅な進歩を遂げている。

ソユーズ2には、1段目、2段目エンジンを改良し、電子機器を近代化したソユーズ2.1aのほか、3段目エンジンも改良して、打ち上げ能力をさらに高めた「ソユーズ2.1b」という機種もある。さらに、ソユーズ・ロケットの特徴でもある、2段目、3段目のコア機体に寄り添うように装着している4基の1段目機体を取っ払い、さらに2段目エンジンも換装し、もはやR-7とは似ても似つかなくなった「ソユーズ2.1v」という機種も存在する。

なお、欧州はロシアからソユーズ・ロケットを輸入し、「ソユーズST-A」、「ソユーズST-B」といった名前で南米仏領ギアナから打ち上げているが、これは前者はソユーズ2.1aと、後者もソユーズ2.1bとほとんど同じ機体である。欧州のソユーズはフェアリングが大きな、頭でっかちな姿かたちをしていることが多いが、空力的にやや不安定になるこの形態で打ち上げられるようになったのは、ソユーズ2で飛行制御システムが改良されたおかげでもある。

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    打ち上げを待つソユーズ2.1aロケット (C) Roskosmos