茨城県科学技術振興財団(江崎玲於奈理事長)は、ナノテクノロジー分野などで優れた業績を上げた研究者に贈る「第16回江崎玲於奈賞」授賞者に、伸縮性と柔軟性に富んだ有機半導体を開発した東京大学大学院工学系研究科教授の染谷隆夫氏を選んだ。
今回の授賞対象になったテーマは「伸縮性と生体親和性をもつ新しい有機半導体エレクトロニクスの開拓」。有機半導体は、極薄で軽い電子部品を作ることができるのが特長だが、染谷氏は、ナノスケールの分子を制御することにより、電気的機能に優れて伸縮性も備えた大面積有機超薄膜とその積層化技術を先駆的に開拓した。そしてその成果を基に人間の皮膚や衣服などに貼り付けて体温などを測定するセンサーを実現。この技術は「ウェアラブルセンサー」「スキンディスプレイ」として医療分野のほか、スポーツ科学など幅広い応用に期待が寄せられている。
染谷氏は科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業(ERATO)」の研究総括など、多くのJST関連研究事業の研究代表者を務めている。
江崎玲於奈賞は、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏の栄誉にちなみ、優れた業績が科学技術振興や産業の活性化にも寄与することを目的に2003年に創設された。授賞者を決める江崎玲於奈賞委員会は、江崎氏を委員長に、白川英樹氏(ノーベル化学賞受賞者)、野依良治氏(同)、小林誠氏(ノーベル物理学賞受賞者)、天野浩氏(同)といった日本人ノーベル賞受賞者が名を連ねている。
また日本学術振興会(里見進理事長)はこのほど、生物学の分野で優れた業績を上げた研究者を顕彰する「第35回国際生物学賞」を、米ハーバード大学生物体・進化生物学科ヘッセル教授のナオミ・エレン・ピアス氏に授与することを決めた。
今回の授賞対象分野は「昆虫の生物学」で、日本学術振興会によると、ピアス氏は現在昆虫学の最高権威の1人で、主な研究テーマは、昆虫と他の生物の共生関係。シジミチョウとアリの共生関係に関する行動生態学が研究の出発点。アリがシジミチョウの幼虫を寄生蜂などの外敵から守る代わりに蜜をもらうという共生関係も、チョウが蜜をアリに与えて痩せてしまうこともある一方、チョウがアリの幼虫を食べてしまうこともあるなど、共生行動には互いに「コスト」が伴うことを野外実験で明らかにした。その後、昆虫が示す共生関係一般へと研究の視野を広げ、現在の研究テーマは(昆虫同士や昆虫と他の生物との)「共進化」「相互適応」や「寄生と防御反応」など多岐にわたる。
ピアス氏は多くの新学説を提唱し、昆虫の生物学の発展に貢献したことが、授賞者を選定する国際生物学賞委員会(委員長・井村裕夫日本学士院幹事)に評価された。
授賞式は11~12月ごろに東京・上野の日本学士院で行われ、賞金1000万円が贈られる。国際生物学賞は昭和天皇の長年の生物学研究と在位60年を記念し1985年に創設された。
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