自動運転における技術協力は、開発を加速させ、自動運転が安全かつ有効で実現可能なことを検証するのに役立ちます。
自動運転車(Autonomous Vehicle:AV)は、誇大宣伝から現実のものへと急速に移行しつつあります。大手の自動車メーカー11社の計画について記載したあるレポートによると、ホンダ、トヨタ、ルノー・日産などから、早くも2020年には何種類か登場するとのことです。
しかし、量産としての自動運転車の普及には、「従来式の」自動車以上に「多く」の要件が求められます。自動運転車は、運転者、他の自動車、インフラと頻繁に情報をやりとりする必要があるため、極めて多くの検証が求められます。これを1社単独で遂行することは不可能であり、自動運転車エコシステム内のさまざまな異種企業の協力が必要です。
デジタルで実現される3Mの次世代Smart Code標識技術やNVIDIAのシミュレーションプラットフォームであるDRIVE Constellationなど、最近の技術協力を見れば、自動運転車を実現する上でエコシステムが重要であることがわかります。
取り組みの進捗状況を示すものとしては、注目を集める事故があったにもかかわらず、レベル3+システムの安全記録は優れたものです。実際、カリフォルニア州の車両管理局(DMV)は、公道で自動運転車を試験しているすべての企業向けに、人間による介入の統計をまとめて公開しています。
たとえば、2018年、Waymoの自動車は120万マイルを走行し、人間の介入レートは11,018マイルに1回の割合だったとのことです。このレートは2017年のほぼ2分の1というだけでなく、米国での年間平均走行距離(13,476マイル)に急速に近づいており、英国の平均(7,134マイル)の1.5倍以上です。
数多くの要素がこれらの急速な改善の一端を担ってきました。プロセッサ、ソフトウェア、センサの進歩が重要であることは間違いありませんが、この技術はシームレスに機能する必要があり、開発や路車間システムの統合などの分野においては、自動運転車の開発を加速し、自動運転車が安全かつ有効で、実現可能なことを検証する上で、強い協調的なエコシステムが不可欠です。
センサの進歩
自動運転車の心臓部はセンシング技術です。センシング技術は低遅延の車車間および路車間通信システムと連動し、統合データが強力なAIベースのプロセッサによって解釈されます。
中核となる3つのセンサ技術は以下のとおりです。
- LiDAR(ライダー):デプスマッピングに使用。最新のシステムは広い視野で100mを越える距離を測定できる。
- レーダー:最高300mの距離に対して、運動の計測(300km/hまで)、物体検出、追跡に使用
- カメラ:物体の認識と分類に使用
すべての車両が同じセンサの組み合せを使用するわけではありませんが(レーダーとカメラだけを使用する車両もあれば、LiDARとカメラを使用する車両もある)、追加したセンサをセンサフュージョンで結合すると、より多くのデータが得られ、相互に補完することによって、システム全体および車両の精度、安全性、信頼性を向上させることができます。
中核となる各センサ技術は絶えず進歩しています。ON Semiconductorは、次世代のSiPMおよびSPADソリューションにより、LiDARシステムに対して、システムのサイズとコストを削減しながら、反射率が低い対象に対しても、より長い距離の測距を可能にしています。また、高精度化、低消費電力化および部品点数の削減を図った同一ICで、短距離モードと長距離モードで同時に動作するレーダー技術を開発しています。イメージングにおいても、Hayabusaファミリーなどのセンサが、自動運転車向けに多様なニーズに対応した幅広い解像度の選択肢を提供しています。
先進のピクセルアーキテクチャの開発により、Hayabusaファミリーの製品は業界最高クラスのスーパーエクスポージャーモードも備えており、140dBを超える高ダイナミックレンジ(非常に暗い領域と明るい領域が混在する厳しいシーンでも高画質画像を提供)と、普及が進んでいるLEDを使用した車両、道路標識、および街路照明源のフリッカを軽減するLEDフリッカ抑制(LFM)を同時に実現しています。
センサ技術と自動運転車エコシステムの両方におけるさらに重要な進歩の例は、車両が道路インフラそのものと通信できる方法に見出すことができます。これは非常に重要なものになる可能性があり、たとえば、危険な道路状態や前方の事故について車両に警告することができます。
自動運転のエコシステムは、車両が道路網と通信し、危険な道路状態や前方の事故に関する警告を受ける方法を決定し促進することによって、自動運転車の有効性と安全性を向上させることができます。短距離の無線通信は、これを可能にする上で重要な役割を果たしますが、道路網全体にわたって展開するにはコストもかかり、ハッキングに対する脆弱性が存在するかもしれず、そのため安全機構やサイバーセキュリティソリューションを準備する必要がある可能性があります。
たとえば、3Mも視覚ベースのアプローチに取り組んでおり、最近、自動運転機能を装備した車両の操縦性向上を支援するために、ON Semicondutorとの協業について発表しました。この技術は主要道路に無線通信システムと併設して、また無線インフラを展開する可能性が少ない狭い道路や迂回路に導入できます。
イメージセンサは現在、人間の運転者よりもはるかに「視認」能力に優れていますが、3Mと協力してイメージセンサを共同開発することにより、標識を利用して、従来の先進運転支援システム(ADAS)以上に運転者を支援する付加情報を提供し、自動運転への道を開くことができます。協業の結果として、ON SemiconductorのCMOSイメージセンサ「AR0234AT」と3MのSmart Code標識技術を一体化したものを、2019年1月のCESで展示しました。
ON Semiconductorの視覚技術を追加することにより、精度を向上させ、冗長性をもたせ、無線システムの実現が困難な状況でも路車間通信を展開することができるだけでなく、このようなシステムを可視化することにより、人々にこのような技術をわかりやすく説明するのにも役立ち、消費者が自動運転車技術に対する信頼を高めることに貢献できるはずです。
自動運転車のプロセッサは、異種のセンサ出力を融合するだけでなく、これらのセンサ(特に視覚システム)が生成する大量のデータを処理するという計算面の大きな課題に直面しています。そのため、技術開発を複数の企業で分担し、自動車用プロセッサにかかる負担を低減する上で、エコシステムが重要な役割を果たします。
そのようなプラットフォーム開発におけるエコシステムの先進的な事例が、「NVIDIA DRIVE」です。これはハードウェアおよびソフトウェアの完全なエコシステムで、システム開発者が連携するとともに先進的な開発システムを利用し、自動運転車の設計と生産を加速させることができるものです。DRIVEにより、深層学習、センサフュージョン、サラウンドビジョンを組み合せ、ドライビングエクスペリエンスを変えることができます。また、最高クラスの安全基準であるISO 26262のASIL-Dレベルの機能安全に準拠しています。
このエコシステムの動作例が、2019年3月開催のGPUテクノロジーカンファレンス(GTC 2019)において展示されました。
このカンファレンスで、NVIDIAとON Semiconductorは、イメージセンサからNVIDIA DRIVE Constellationへリアルタイムにデータを送るオープン・クラウドベースプラットフォームのデモを実施しました。これは大規模な試験のシミュレーションと、安全で堅牢な自動運転車開発における進歩を加速するための検証をサポートするものです。
結論
運輸業界では、破壊的な変化が進行しています。ほぼすべてのメーカーの自動運転車が今後数年で生産に入ることになっており、それにより運転上および社会的な多くの利益がもたらされ、とりわけ道路での交通事故は大幅に減少することでしょう。
半導体は、この新たな輸送パラダイムを可能にしているイノベーションの中核を成します。この技術は急速に進歩していますが、複雑さと困難もまた指数関数的に増加しています。自動車メーカー、技術系企業、大学、政府が連携し、安全安心でタイムリーな自動運転車の普及を実現する必要があります。開発を分担し、加速させるためだけでなく、自動運転車が安全かつ効果的で、実現可能であることを検証するためにもエコシステムの発展が極めて重要です。
著者プロフィール
Joseph Notaro(ジョセフ・ノタロ)ON Semiconductor
バイスプレジデント、ワールドワイドオートモーティブ・ストラテジー&ビジネスデベロップメント