なんらかの動くモノを作る際に必要となるワイヤハーネス(配線)。例えば超微細な半導体を製造するのに用いられる露光機では約5000ほどのワイヤハーネスが用いられており、それが航空機になればその長さは実に50マイルに到達する。それらの配線は外装と内装の間に所狭しと埋め込まれることになるが、場合によっては配線の方法などが法的に定められている場合もある。

自動車もこうしたワイヤハーネスが増加の一途をたどる業界の1つである。その背景には、電子/電動化(E/E)がある。現在のセダンタイプの自動車には100を超すサブシステムが搭載され、その間に何万もの信号が多重化され飛び交い、それらは10万行を超すソフトウェアで制御される。しかも、それはオプション構成などの違いにより、幾重にもパターンを変更する必要がでてくる。

こうした自動車の開発・設計の複雑化の要因は何か。「自動車業界には5つのトレンドがある」とシーメンスPLMソフトウェアでデザイン・ドメイン・ディレクター 総合電気システム(IES)を務めるナイジェル・ヒューズ(Nigel Hughes)氏は語る。

  • ナイジェル・ヒューズ

    2019年7月10日-11日にかけて都内で開催された年次ユーザーカンファレンス「Realize LIVE Japan 2019」のメディアブリーフィングでCapitalについて説明を行うナイジェル・ヒューズ氏

1つ目は電動化であり、2つ目は電子化。いわゆるE/Eだが、これにより、複数の電源を搭載する必要が生じ、高電圧の配線を接続するために、重量級のコンポーネントを搭載する必要が生じている。同氏は「現在、自動車の購入の決め手の1つが、こうしたADAS機能をはじめとするE/Eに基づく機能の有無や、その性能となっている」とその動きを説明するが、自動運転へ向けて進む自動車産業では、今後も、こうした動きは継続して続いていくこととなる。

3つ目が各国政府によるさまざまな規制で、4つ目がカーシェアリングに代表されるMaaSのようなあらたな自動車を活用したビジネスモデルへの対応、そして5つ目が自動運転。こうしたトレンドに対応するためには、より多くのセンサやアクチュエータの搭載が求められ、それらをコントロールするためのロジック半導体の搭載が求められ、その上で、より複雑化されたソフトが動作することとなる。

  • シーメンス

    自動車業界に複雑化をもたらす5つのトレンド (資料提供:シーメンス)

「ISO 26262は機能安全を実現するために必要な認証。こうした規制は航空宇宙産業が先行して長い間にわたってノウハウを蓄積してきたが、自動車にもそれと同程度の取り組みが求められるようになる」と同氏は今後、さらなる安心・安全な運転の実現に向けて、複雑な設計が求められていくことになることを強調。そうした複雑化していく設計の助けとなるのが、シーメンスが買収したMentor Graphics(メンター)が提供する電装システム/ワイヤ・ハーネス設計のためのソリューション「Capital」であるとする。

Capitalにはワイヤハーネスの自動配置、いわゆるジェネレーティブデザインの機能が搭載されている。これによりユーザーは、各設計段階において、さまざまな角度からの最適化を図ることができるようになる。「エレメカ連携の最適化などのトレードオフを定義(Define)段階で実施し、そのごの設計(Design)領域で実際にロジカルなシステムとして物理設計に入力され、それがハーネスや端子などに反映される。そこを経て、ティア1に実際のデータが渡されることとなるが、ここが早くなれば、よりよいビジネスの獲得につながる可能性が高まる」と、同氏はCapitalを活用することのメリットを強調する。

  • Capital

    Capitalは製品の定義段階から、設計、製造、そして保守整備(サービス)の段階まで幅広く対応することができるソリューションとなっている (資料提供:シーメンス)

同氏は、「完全なE/Eのライフサイクルを実現する機能的なデジタルツインの実現をCapitalは目指しており、その故にデータの一貫性維持や、MCADやPLMなどのモデルとの統合も可能になっている。これにより新たな価値を生み出すことができるようになるが、あくまで顧客の掲げるビジネス目標を達成するための取り組み。シーメンスはMentorを買収したことで、唯一のE/Eを完全に統合した形で提供できるようになった企業であると思っている」と、Capitalの現状を説明する。

  • Capital

    自動車開発は配線だけではなく、それらの先で動くハードウェア、さらにその上で動くソフトウェア、ネットワークとしてのトポロジなど、さまざまな技術を融合して考えていく必要がある。シーメンスとメンターが一緒になったことで、そうしたさまざまな側面を一元的に扱うことが可能になった (資料提供:シーメンス))

「電気自動車では軽量化は航続距離を伸ばすことにつながるため、メリットとなる。しかし、トラクターやコンバインなどを製造するメーカーは、ジェネレーティブデザインの結果、逆に重量を増やす、という選択肢がでることもある。こうした複雑性をCapitalを活用することで可能となり、その結果、イノベーションを加速させ、すばらしい製品をエンドユーザーにまで提供することができるようになる」(同)とのことで、今後もNXとの連携強化など、よりさまざまな使い勝手の向上に向けた取り組みを継続的に行っていくとする。

なお、現在、半導体メーカーによっては、ワイヤハーネスの削減に向けて自動車のワイヤレス化に向けた無線技術の提案を行っている企業が複数いるが、「ツールとしてどんな2点の間をも接続できるが、現状は搭載されるハーネスの量は増加しており、この動きは今後数年は続くとみられる。もしソリューションとして、高速物理ネットワークが車載向けに採用されるようになれば、ハーネスの量も減るとは思うが、Capitalではジェネレーティブデザインツールを活用することで、どのようなことができるのか、といった探索も可能であるため、無線と有線の組み合わせ、といった探索もできるようになる」(同)とのことで、Capitalでもそうした設計は可能だとしている。