世界150カ国に展開し、1日あたり1000万人のアクティブユーザーを抱え、開発者数は50万人(サードパーティアプリケーションの開発者なども含む)に達するコミュニケーションツールを提供するSlack。今回、米Slack Technologies プラットフォーム担当バイスプレジデント兼ジェネラル・マネージャーのブライアン・エリオット氏にインタビューの機会を得たため、Slackのプラットフォームを中心とした話を紹介する。
“ビジネスコラボレーションハブ”として
現在、Slackは無償版と有償プランのスタンダード版、プラス版、Enterprise Grid版を提供し、有償プランに移行すれば過去のデータも参照できる。クラウドに展開する「ワークスペース」をベースとし、誰でも参加できる「パブリックチャンネル」、特定のメンバーが参加可能な「プライベートチャンネル」、別組織と情報を共有する「共有チャンネル」を使い分けて利用する。
エリオット氏はプラットフォーム戦略の実行を担い、チームではサードパーティアプリケーションツールとの連携に加え、カスタムアプリケーションのフレームワークを構築している。
同氏は「Slackは“ビジネスコラボレーションハブ”だ。ユーザーの日々の業務に効果を生み出しており、われわれが実施したアンケートの結果では、87%の人が組織内におけるコラボレーション・コミュニケーションがSlackにより改善したと回答している。日本でも技術系スタートアップから大企業、学術関連など業種・業界を問わず採用が進んでおり、継続的に投資している」と述べた。
そして、同氏はSlackのプラットフォームについて「サードパーティーのアドイン機能である『Appディレクトリ』と『カスタムアプリ』の2つが特徴だ」と強調する。
現在、大企業が利用するクラウドサービスは1000を超えることから情報がサイロ化し、エンジニアのチームと共有できないことがあるものの、Slackではユーザーがどのような情報でも見つけて共有し、通知により行動を起こすことができる。
Appディレクトリは、GoogleやMicrosoft、Salesforce、Oracle、Workday、Zoomなどと連携しており、日本でも営業支援やアナリティクス、ワークフローなど約50社と連携し、グローバルにおけるアプリ数は1500以上となっている。
一方、カスタムアプリはチームのためにアプリを構築するとともに自社のレガシーシステム、既存のワークフローに連携させることが可能だ。現状では1週間に使用されるカスタムアプリ数は45万以上に達し、大半のアプリは組織内で利用するために構築されたものだ。
そのため、同社ではオープンAPIや開発者ツール、Block Kit UIフレームワーク、教育とサポートにより開発者コミュニティを支援している。日本における一例としては、APIを使いやすくし、アプリの作成をサポートするためのNode.jsのフレームワーク「Bolt」を日本語化している。
さらなる利便性を追求した機能強化
続いて、エリオット氏は4月に年次イベント「Slack Frontiers 2019」で発表された新機能などを説明した。同イベントでは、新たに「メールのブリッジ機能」「共有チャンネル」「ワークフロービルダー」を発表したほか、7月22日(現地時間)にはSlackのバージョンアップを発表している。
メールのブリッジ機能は、すでに提供を開始しており、組織内でメンバーが非Slackユーザーでも既存のSlackユーザーとのコミュニケーションを可能にするというものだ。
例えば、米OracleではSlackを全社導入しているが、組織全体での導入期間は部門間の導入状況により、Slackユーザーと非Slackユーザーが混在することから、3カ月程度要するという。そのため、ブリッジ機能によりSlackユーザーが非SlackユーザーのEメールアドレスにメッセージを送信すれば、Slackからのダイレクトメールの閲覧などができ、反対にEメールアドレスから返信すればSlack上に表示することを可能としている。
これにより、違う環境でのコミュニケーションが可能になることに加え、それまでメールを利用していた人がSlackユーザーとなれば、自動的に過去の会話がアーカイブされた状態で業務に取り組める。
共有チャンネルは、これまでスタンダード版、プラス版で提供されていたが、Enterprise Grid版にも提供を開始している。同機能はベンダーやサプライヤー、顧客など組織の外部の人ともやり取りがあることから、2つの組織でSlackを利用していれば選択したチャンネルを共有できる。
ワークフロービルダーは、カスタムアプリケーションは開発者が構築する必要があるため、コードレスのビジュアリゼーションとし、誰でもSlack上でワークフローが構築でき、営業やマーケティング、広報など、あらゆる部門でワークフローの簡単な仕組みを構築できる。
営業部署を例に挙げれば、新しいメンバーが顧客ごとのチャンネルに加入する際に、フォームベースでデータ入力すれば自己紹介できるようなワークフロー、あるいは新メンバーに対して顧客の情報を共有できるワークフローの構築が誰でも作成可能だという。正式版の提供開始は年末に予定している。
そして、先日発表されたデスクトップアプリのアップデートについてエリオット氏は言及した。今回のアップデートではデスクトップアプリの起動速度を従来比33%改善させたほか、コールの接続速度を同10倍にスピード向上し、メモリ使用量を同50%低減させているという。
アップデートに関してエリオット氏は「信頼性とスピードはユーザーにとって重要である。そのため、Slackのクライアントアーキテクチャを根本的なところから書き換えた。検索が早いか否かは、プロダクトに対するイメージを左右する」と説明した。
Slackを企業内でフル活用するために
このように、多くのメリットを持ち、あらゆる業種・業界での採用が進みつつあるSlackだが、フルに活用できている企業は限られているのではないか、という疑問は否めない。
そこで、同氏にSlackの活用が十分ではない企業に対する助言を求めたところ、すべての企業に対してはオンボーディングを簡単するためにエンタープライズ向けのインタラクティブトレーニングアプリ「Slack Foundry」の利用を勧めており、Slackの基本的な使い方や応用編などを説明しているという。
また、大企業に対してはカスタマーサクセスチームがSlackのトレーニングや使い方の設計などを支援することに加え、成熟度スコアで各部署の進捗度合いを確認することができる。成熟度スコアは「ダイレクトメッセージ」からスタートし、「標準的なアプリケーションの連携」「カスタムアプリケーション・ワークフローの作成」に分類されており、段階を踏んで取り組むことが肝要だとエリオット氏は話す。
そして、同氏は「単なるチャットアプリであれば、Oracleなどに使われないだろう。ある世界的なゲーム会社では、グローバルで部署間をつないで業務しており、SlackやZoom、G Suite、Outlook、カレンダーなどを組み合わせている。単にコミュニケーションだけではなく、会社の文化を変革するために採用し、社内におけるSlackを用いたコミュニケーション法や使用するアプリケーションを定めている」と説明していた。