遺伝子を効率よく改変できるゲノム編集の技術を使って、雨に濡れても穂についた実が発芽しにくく、商品価値が落ちないコムギを開発したと、岡山大学や農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などの研究グループがこのほど発表した。日本や北欧のように収穫期に雨が多い地域のコムギを雨にも強くできると期待され、研究成果は米科学誌「セルリポーツ」に掲載された。

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    コムギとオオムギは共通の祖先から300万年前ころに分かれたとされており、それぞれ7対の染色体からなる類似したゲノムをコムギは3組、オオムギは1組もっている(農研機構、岡山大学など研究グループ提供)

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    ゲノム編集の技術を使って雨に濡れても発芽しにくくなったコムギ(左)と穂の状態で発芽してしまったコムギ(右)(農研機構、岡山大学など研究グループ提供)

研究グループは、岡山大学資源植物科学研究所の佐藤和広教授、農研機構の安倍史高主任研究員らを中心に帯広畜産大学や横浜市立大学の研究者も参加した。

研究グループによると、コムギは6000年以上前に3種類の異なる植物が自然に掛け合わさってできたことが分かっているが、全遺伝情報であるゲノムを人間のように1組ではなく、3組(Aゲノム、Bゲノム、Dゲノム)持っている。それぞれのゲノムは7対の染色体からなる。このように複数のゲノムがあり、類似した遺伝子を重複して持つ植物の特性を改良することは、これまで難しかった。

佐藤教授らの研究グループは、1つのゲノムしか持たないオオムギで見つかった「Qsd1」と呼ばれる遺伝子に着目した。Qsd1は、「種子休眠」という発芽に適した条件になっても発芽しない現象に関わり、この遺伝子が働かないと種子の休眠が長くなることが分かっていた。種子の休眠が長いことはムギ類を含めた穀物が雨によって発芽してしまうことを防ぐための重要な特性という。

研究グループはゲノム編集の「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)」という技術を使い、コムギが持つ3組のゲノムそれぞれにあるQsd1に相当する遺伝子を一度に改変。Qsd1が働かず、発芽しやすい環境におかれても発芽しにくいコムギをつくった。そして穂の状態で種子に水をかけて濡らす実験を続けたが、通常のコムギと比べて発芽が目立って遅れたという。

収穫時の降雨によってコムギのような穀物が穂に種子が付いたまま発芽してしまう現象は「穂発芽」と呼ばれる。穂発芽したコムギから製粉した小麦粉は、品質が劣化して商品価値が著しく下がる。農研機構などによると、穂発芽による経済損失は大きく、日本国内の例として知られる2016年の北海道での被害額は140億円に上るという。今回の成果について研究グループは、経済的効果や技術開発の面での意義は大きい、としている。

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