キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は7月30日、都内で2019年下半期の経営戦略に関する記者説明会を開催した。説明会には、3月に同社の代表取締役社長に就任した金澤明氏が出席した。

  • キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

    キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

同氏は1959年6月24日生まれ(宮城県気仙沼市)の60歳で、32歳のときに住友金属システム開発に入社し、主に証券・金融系の業務に従事。2016年からキヤノンITSのSIサービス事業の統括責任者を務めていた。

金澤氏は就任後に「プロセスやKPIを重視する経営」「継続的な成長を重視する経営」「社員が実力を発揮できる環境作り」を経営姿勢に据えている。2019年上半期(1月~6月)の売上高は前年同期比10%増の463億4000万円、営業利益が同43%増の49億9000万円、営業利益率は同2.5ポイント増の10.8%となり、2021年には2018年比16.3%増の売上高2300億円、時期長期経営構想(2021年~2025年)期間中には3000億円を計画している。

同社では、システム受託が中心とした2003年~2009年を「創業・規模追求期」、リーマンショックを経た2010年~2017年を「構造改革期」、2018年からは「第II創業・成長期」と位置づけ、顧客のデジタルビジネスを強化するため規模・利益の両方を追求すると同時にキヤノンMJグループにおけるITS戦略の中核的役割を果たすという。

そのような状況を踏まえ、金澤氏は「われわれのありたい姿は顧客やパートナーと共創し、デジタルトランスフォーメーションを成功させる真に頼るITパートナーになり、人口減少やサイバー攻撃、食品ロス、少子高齢化をはじめとした、さまざまな社会課題をITにの力で解決することだ。顧客のデジタルビジネスを支援する共創パートナーとしての位置づけを強めていきたい」と力を込めた。

  • キヤノンITSが目指す姿

    キヤノンITSが目指す姿

同社の強みである独自の技術開発や徹底した品質管理、トータルサポートを支える社員とともに「得分野の拡大と深耕」「独自の付加価値の向上」「グループ連携の強化」を図る方針としている。

これを実現していくための基本戦略として「顧客満足を超えてお客さまが感動する価値を提供する」「着実に成長するための事業構造に転換する」「競争力の源泉となる組織能力を強化する」の3点を挙げている。

  • 基本戦略の概要

    基本戦略の概要

2019年における各事業の主要テーマ

そして、同氏は基本戦略をベースとした2019年のSIサービス事業、ITインフラサービス事業、エンジニアリング事業の主要テーマについて触れた。

SIサービス事業では「お客さまのビジネスへの貢献により、市場から期待されSIerとなる」、ITのインフラサービス事業は「付加価値型ビジネスを強化し、ストック型ビジネスへの移行を加速する」、エンジニアリング事業では「キヤノンで培った技術をもとに独自のサービスモデルを確立する」をテーマに掲げている。

SIサービス事業は業種別の特異領域での成功事例を横展開し、顧客の深耕と拡大を進めると同時に、サービスビジネスへのシフトを具体化・加速させる。金融は銀行・証券・カード会社の中核業務領域への参画、製造・公共・流通ではスクラッチからソリューション型の販売に注力、グローバル事業では現地独自事業の拡大と国内企業向けの対応力を強化する。

  • SIサービス事業の概要

    SIサービス事業の概要

ITインフラサービス事業では、データセンター事業を安定起動に乗せ、価値向上に向けて運用サービスの提案力・対応力を高め、事業部感で連携してアウトソーシングビジネスを拡大する。データセンターサービスはI期棟とII期棟の一体運営による収益性を向上し、付加価値サービスは運用領域におけるプレゼンスの向上、ITインフラ関連事業ではノウハウを生かしたセキュアなシステム運用を提供していく。

  • ITインフラサービス事業の概要

    ITインフラサービス事業の概要

エンジニア事業は、パートナー企業と連携することで人材育成を進め、開発体制を強化するとともに事業の柱となるビジネスモデルと顧客基盤を固める。外販組込みではAUTOSAR(AUTomotive Open System Architecture)関連ビジネス拡大と高単価領域へのシフト、3Dソリューションは大手・中堅企業への直販営業の強化、AI/IoT関連ではグループ横断タスクによる新事業モデルの確立を図る。

  • エンジニア事業の概要

    エンジニア事業の概要

そして、全社注力テーマとしてクラウドビジネスとデジタルビジネスを推進する。クラウドビジネスでは(1)企画から設計・開発、運用まで一環したサービス、(2)先進的なテクノロジーを駆使したクラウドインテグレーション、(3)認定資格取得によるラウド人材育成に取り組む。

デジタルビジネスは、(1)お客さまの新たなビジネスモデルをデジタルで創造、(2)お客さまの売上拡大に貢献するデジタル化支援、(3)お客さまの業務効率化に貢献するデジタル化支援を行う。

2025年の崖に向けた取り組み

続いて、金澤氏は経済産業省が発表した「2025年の崖」に対する、同社の取り組みについて説明した。同社のSIサービス事業において、金融や製造・公共・流通などインダストリー別のサービスと、マイグレーションをはじめとしたクロスインダストリーのサービスをグローバルな支援体制をもとに提供している。

同氏は「これまでの日本のSIビジネスは顧客の要望にきめ細かく対応していたが、2025年の崖における問題の一端はわれわれにもある。崖を飛び越えるためにはホップ、ステップ、ジャンプの3段階によるデジタル化へのグランドシナリオが肝要だ」との認識を示す。

そこで、同社ではDXを成功させるためにホップとしての「ITシステムの整理と見極め」、ステップとしての「SoRの維持/SoEのエンハンス」、ジャンプとしての「デジタルを駆使した価値創出」の3つのポイントを提唱している。

ITシステムの整理と見極めについては、ウォーターフォール型の「絶対的な安定と品質」とアジャイル開発型の「変更への柔軟性とスピード」の2つの構築形態に対して、機能分割・刷新、機能追加、機能縮小・廃棄、現状維持の4象限について業務とITシステムの整理が必要だという。

SoRの維持/SoEのエンハンスに関しては、4象限に整理したもののうち変わらない部分はERP、MRPなどのパッケージやスクラッチ開発で対応。一方、変化が予測される部分はローコード開発を採用することで高速に開発・運用サイクルを回し、戦略や現場ニーズにジャストインタイムで成果を提供するため、同社ではローコード開発プラットフォーム「Web Performer(ウェブパフォーマ)」を有している。

デジタルを駆使した価値創出では、バリューとプロセス、ビジネスモデルをデジタルシフトし、新しいビジネスを創造するために、同社が持つデジタルイノベーションは画像解析や言語処理、数理技術、画像処理となる。

最後に金澤氏は「人手不足の中で、なにをするにも自動化により人手を介さず進めることが大きなポイントだ。われわれは、2025年の崖に立ち向かう企業に対してユーザーに寄り添い、先進技術への挑戦、最後までやりきる胆力で支援する」と強調していた。