東京大学(東大)および東邦大学の研究チームは、ルテニウム錯体を触媒として、酸化剤と塩基を組み合わせた反応系を用いることで、室温にてアンモニアから窒素分子と電子とプロトンを同時に得ることが可能な手法を開発したことを明らかにした。

同成果は、東大 大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンターの中島一成 准教授、同 大学院工学系研究科 システム創成学専攻の 戸田広樹氏(博士課程1年生)、同 大学院工学系研究科 システム創成学専攻の西林仁昭 教授、東邦大学 薬学部の坂田健 教授らによるもの。詳細は、7月24日付の「Nature Chemistry」(オンライン版)に掲載された

再生可能エネルギーの活用が世界的に期待されているが、得られたエネルギーをどのように貯蔵、運搬するか、といった課題があり、低圧で液化できる取り扱いの容易さ、高いエネルギー密度、利用した際に二酸化炭素を排出しないという特徴を持つアンモニアを水素のキャリア(エネルギーキャリア)として活用できないかという研究開発が進められている。今回の成果もその1つで、アンモニアに蓄えられた化学エネルギーを取り出すプロセスの開発を目的に行われた。

今回の研究にあたって研究グループは光合成の反応を踏まえ、その中から、光合成を進行させる物質としてルテニウム錯体が報告されていることに着目し、光合成のモデル反応系を用いて、水の代わりにアンモニアを用いた場合は、どのような反応になるのかについての実験を行った。

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    水の酸化反応と同じようなことがアンモニアでできないかということから研究が進められた (資料提供:東大 西林研究室)

実験系としては、アンモニアを窒素分子と電子とプロトンに分離させるために、電子受容体として酸化剤、プロトン受容体として塩基を、触媒としてルテニウム錯体をそれぞれ採用。それらを有機溶媒(アセトニトリル)にいれ、室温(25℃)での反応を観察した結果、アンモニアから窒素ガスが発生したことを確認したという。また、反応は-40℃ても反応を確認。反応条件下では、触媒あたり12当量、酸化剤あたり収率80%という結果を得たとする。

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  • 今回の研究で確認されたアンモニアの酸化反応 (資料提供:東大 西林研究室)

また、電気化学的酸化反応条件下においてもアンモニアの触媒的な酸化反応が進行することも判明。応答電流を測定する手法であるサイクリックボルタンメトリー条件下にて触媒電流が観測され、1秒間に触媒1分子当たり2.8分子の窒素分子が発生する反応であることが確認できたほか、アンモニウム塩の代わりにアンモニアを直接用いた反応系においても同様の触媒反応が進行することを確認したという。

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    反応機構。理論計算により算出された (資料提供:東大 西林研究室)

研究グループによると、今回の成果は、アンモニアが窒素分子と電子とプロトンへと変換することが可能であることを示すもので、アンモニアから室温で直接エネルギーを簡単に取り出す反応という新たなプロセスであり、アンモニアを用いた燃料電池に応用できる可能性が示されたと説明している。

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    アンモニア燃料電池のイメージ (資料提供:東大 西林研究室)

すでに研究グループは2019年4月に窒素と水からアンモニアを合成する手法を発表しているが、今回の成果は、その逆となるもので、これらを組み合わせることで、窒素と水でアンモニアを合成し、それを貯蔵タンクなどに保管し、必要なときにアンモニアから電気エネルギーとして取り出す、というコジェネレーション的な使い方の実現が期待できるようになる。しかし、その実現のためには、アンモニアの腐食性が水素よりも高いことから、アノード側の電極などが腐食してしまうなどの課題があり、反応性の制御を厳密に行う技術の開発などが必要になるとしており、引き続き、研究を継続していくとしている。

実際の実験の様子と反応機構のアニメーション。フラスコの中に入れたアンモニアが反応を起こし、窒素ガスが発生したことが実験から確認された。また、反応機構はアンモニアから、窒素分子と電子とプロトンへと変換が進んでいく様子が見て取れる (資料提供:東大 西林研究室)