日本郵船(NYK)は7月25日、都内で記者会見を開き、電子通貨(価値はUSドルと連動)プラットフォーム「MarCoPay」の事業会社としてMarCoPayをフィリピンのTransnational Diversified Group(TDG)と共同で設立したと発表した。現在、フィリピン中央銀行にEMI(Electronic Money Issuers)のライセンスを申請しており、同プラットフォームのサービス開始は2020年初頭を予定している。
MarCoPayは主に外国人船員を対象としたスマートフォンアプリでQRコードを使い、電子決済や国際送金、再現金化が可能な電子通貨プラットフォーム。船上での給与支給や生活用品の購入をキャッシュレス化し、航海中であっても自国への送金が可能となり、アプリの利用者が世界中でATMで現金として引き出すことができるようになるという。
現在、日本の海運会社が保有する商船に乗船する船員はフィリピン人が大部分を占める状況にあり、従来からNYKとは多様な関わりがあるという。船員は6カ月~8カ月連続乗船し、3カ月の休暇を繰り返す特殊な勤務形態のため、簡単には下船できないという事情がある。
また、外国人船員は一般的に自国での平均水準を上回る給与所得を得ながら給与の基本給は銀行口座に振り込まれ、残業代や諸手当は船上での現金払いが一般的となっており、金融インフラがいまだに発展段階であるほか、乗船ごとの期間契約となる船員特有の事情から経済価値が社会に正しく認知されていないケースがあるという。
日本郵船 デジタライゼーショングループ デジタル・ガレージチーム長の藤岡敏晃氏は、プロジェクト発足の経緯について「世界中の船上には約800億円の現金がある。しかし、管理会社は船上への現金送金に関する送金・振込手数料のコスト、船長は現金管理業務、船員は給与現金受け渡し後の現金管理の負担をそれぞれ抱えている。また、船上の通信環境は陸上とは比較できないほど悪い」と指摘。
そこで、同社ではアクセンチュアとシティグループと共同で電子通貨を用いたキャッシュレス化で課題を解決することにした。アクセンチュアはMarCoPayシステムの構築し、給与支払いとシティグループへの準備金講座振り込みを、シティグループは電子通貨の現金化など準備金管理を担う。
同氏は「電子通貨は船長を通じて船員に配布され、船員はスマートフォンでドル換算可能な形で受け取る。スマートフォンの中の電子通貨は本国で共同口座を持つ家族に送金でき、船員自身も各地のATMで現金の引き出しなどが可能だ。電子通貨を再現金化できる価値の安定したシステムだ」と説明した。
アクセンチュア 執行役員 テクノロジー コンサルティング本部 統括本部長の土居高廣氏は「システム基盤を担当するにあたり、高い堅牢性と新しいサービスを素早く展開することが重要となるため、新技術を活用するとともに現地当局の認可取得、既存の金融インフラとの接続、業界をまたがる新サービスが展開しやすいシステム基盤の構築が必要だ」との認識を示した。
さらに、日本郵船 専務経営委員・技術本部長(CIO)の丸山英聡氏は、同プラットフォームに関して「通常の電子通貨とは違い、スムーズかつ安定した現金化が柱になっている。全世界で安心して使える金融ネットワークだ」と述べていた。
今後は海運業での展開として船食屋との決済、プライベートオーダー決済、法人間決済、船員のライフサイクルを支えるものとしてディスカウントクーポンや住宅ローン、学資保険、マイカーローン、金融サービス、生命保険などの機能追加を想定している。自社以外の船主や管理会社にも展開し、継続的に機能拡張を進め、さまざまな小売店やサービスと連携することで同プラットフォームが利用できるネットワークを広げていく考えだ。