東京大学 生産技術研究所(生研)は7月23日、同研究所の設立70周年記念事業の1つとして、日本のロケット研究開発にゆかりのある複数の自治体と協力する形で、宇宙開発発祥の地から繋ぐコンソーシアム「科学自然都市協創連合」を発足。同日、記念式典を生研ゆかりの地である国立新美術館にて開催した。
現在の生研はロケットの開発などを手がけていないが、実は日本の宇宙開発とは密接な関係がある。というのも、日本の宇宙開発・ロケット開発の父とも称される糸川英夫 先生が、生研でペンシルロケットの開発などを手がけていたからで、現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所(ISAS)は、生研のそうした流れから生まれた東京大学 宇宙航空研究所の系譜に連なる組織であり、今なお、生研で始まった宇宙開発に向けた取り組みは連綿と続いているといえる。
同コンソーシアムは、そうした糸川先生が行ってきたロケットの研究開発に関係がある都市と生研が連携して形成されたもの。その設立目的には、「宇宙開発発祥の地として互いに敬意を払いながら、それぞれの地域振興に繋がる横断的な取り組みを協働して推進することを目的とする。また、ロケット開発の即席に想いを重ねて、科学技術を活用して夢と活力のある社会の形成を目指すと共に、地域連携の取り組みを通して知恵と経験を共有し、自然の驚異に対峙しつつも自然と触れ合い人間らしく生き生きとした生活を営めるまちづくりに連携して取り組むことにコンソーシアムの今日的な意義を見出し、その趣旨に賛同する地域や組織との連携の輪を拡げて、魅力的な社会とまちづくりに取り組むことを目指す」(原文ママ)と記されており、糸川先生がつむぎだしたロケット開発という縁でつながった各自治体が協力して、それぞれの地域の活性化を目指そうというものとなっている。
糸川先生のロケット研究を時系列的に見ると、西千葉(現在の千葉地稲毛区弥生町)でロケット研究開発を本格的にスタート。荻窪(現在の東京都杉並区桃井)に産業界の同志を得て研究を軌道に乗せ、1955年4月に国分寺(東京都国分寺市本町)でペンシルロケットの水平飛翔公開実験を実施。その後、上空への斜め飛翔実験に向け、道川(現在の秋田県由利本荘市岩城)、能代(現在の秋田県能代市浅内)、内之浦(現在の鹿児島県肝属郡肝付町)へと飛翔実験の拠点を展開していった。そのため、コンソーシアム設立時の加盟自治体としては、これらの6都市および生研ということとなる。
- 千葉県千葉市
- 東京都杉並区
- 東京都国分寺市
- 秋田県由利本荘市
- 秋田県能代市
- 鹿児島県肝属郡肝付町
- 東京大学 生産技術研究所
また、その活動事項は以下のとおり。
- 魅力的なまちづくりに関する知恵の共有
- 安全で安心なまちづくりに関する経験の共有
- 教育・研究を通した人材育成と産業振興に関する協力
- 官学産民の協働による相互交流の推進と情報発信
- 連携を深めるための協働行事の企画と実施
- その他、コンソーシアムの目的を達成するために必要な事項
生研の岸利治 所長は、「約1年をかけて各自治体と相談を進め、ようやく調印にたどり着いた。糸川先生が日本各地域でロケット研究を進めてきた中で、それらをつなぐ何かができないかという発想からスタートしたが、現在、生研ではロケットの研究をしていないこともあり、現在の強みを活かしたい、という想いもあったことから、こうしたコンソーシアムとなった」と経緯を説明。活動のキーワードとして、「つなぐ」「つながる」を掲げ、活力と創造性を発揮していければ、とした。
また、記念式典には日本のロケット開発の生き字引ともいえる秋葉鐐二郎 先生(東大 名誉教授。同コンソーシアム 顧問)や、現在のJAXA 宇宙科学研究所 所長の國中均氏、生研と同じ駒場にキャンパスを構える東大 先端科学技術研究センターの神崎亮平 所長、東大 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻長の津江光洋 教授らも参加。津江 教授は、糸川先生が実際に実験に使用したであろう秘蔵のペンシルロケットを持参して披露したほか、秋葉先生はコンソーシアム設立の記念に作ったというタオルを持参。ちょうど50年前に月面着陸を成し遂げたアポロ計画を振り返り、「アポロ計画は、将来の技術に投資するという大事業の成果であり、今、使われている多くの技術がこの時代に出来上がった。こうした将来のためにお金を作ろう、という仕組みが出来上がっていないことが大変な問題だと思っている」と持論を展開。ケネディが大統領就任の際に発した一節「あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。 あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい(ask not what your country can do for you--ask what you can do for your country)」を取り上げ、「このコンソーシアムの大事なところがここにある。こうした想いをもって、活動していってもらいたい」とコンソーシアムへの期待を述べたほか、自らも、地方通貨などを立ち上げ、100~200年後に役に立つことをやっていきたいという考えを持っていることを示した。
なお、コンソーシアムは今回の生研ならびに6自治体の構成で終わりではなく、今後、趣旨に賛同する自治体や教育研究機関、団体など広く受け入れを行い、それぞれの持つ課題の解決などを協力して行っていければとしている。