5月に日本マイクロソフトと協業を発表したコニカミノルタ。今回、具体的な協業の意図や企業におけるIoTの活用に関し、コニカミノルタ 産業光学システム事業本部長 ビジネスイノベーションセンターの市村雄二氏に話を聞いた。

  • コニカミノルタ 産業光学システム事業本部長 ビジネスイノベーションセンターの市村雄二氏

    コニカミノルタ 産業光学システム事業本部長 ビジネスイノベーションセンターの市村雄二氏

--協業の背景をお聞かせください。

市村氏:世の中の変化に対して、特に日本メーカーはITをアウトソーシングしている傾向にあります。しかし、事業運営の最適化や社会実装する際に自ら実現できなければならない。その際は、自社で取り組む領域と他社と協業する領域の境目を考える必要があります。

そのため、マイクロソフトさんとは真摯な関係性でありたいと考えました。日本法人との協業以前には、米国とヨーロッパのマイクロソフトさんとそれぞれ協業しています。日本マイクロソフトさんとの協業のきっかけは、われわれが日本とドイツにおいて製造業向けにソリューションを提供するデジタルマニュファクチャリング事業部を立ち上げていることが関係しています。

ドイツは、われわれにとって重要な国であり、欧州のヘッドクォーターが所在し、MFP(多機能プリンタ)のビジネスも大きく、マイクロソフト製品に知見を持つITサービスを提供する企業などを買収しており、ドイツのみならずポーランドやチェコをはじめとしたヨーロッパにおける「Microsoft Dynamics 365」のビジネスが好調です。

クラウドやエッジ問わず製造業向けにソリューションを展開していく中で、例えばメガクラウドベンダーの場合、教師モデルを用いてクラウドで検証します。われわれも同様の手法で検証が可能ですが、特に画像関連の技術やアルゴリズムなどの教師モデルの構築から支援できます。この点について、マイクロソフトさんに興味を持ってもらい、話が進みました。

まずはヨーロッパからスタートし、そして日本マイクロソフトさんとも協業するに至りました。マイクロソフトさんからすれば「Microsoft Azure」や同製品と連動した「Microsoft Office 365」、Dynamics 365を日本で展開する際に、われわれのことを価値あるパートナーだと認識しています。

--協業に対する周りの反応はいかがだったでしょうか?

市村氏:多様な業種から、さまざまな部署へ問い合わせがありました。どうしても複合機ベンダーというイメージが強いため、われわれがマイクロソフトさんとソリューションで協業するということは驚きを持って迎えられ、関心は高いものだと思います。

いろいろなことを議論していますが、あらゆる分野ではなく、両社にとって価値のあるテーマはオフィスと製造業、ヘルスケアの3領域となります。

オフィスでは物理的な人の動きとデジタルの動きを融合し、可視化すれば従来は気づき得なかったものが見えてきます。これまで感覚に頼っていたワークアナリティクスや働き方などを、客観的に可視化すれば組織の壁を超えて活躍する人材を把握できるのです。

物理的な世界でも評価の高い人の動き方と、そうではない人の差分を可視化すれば多様なトレーニングや研修に活かせます。リモートワークや働き方改革により、複雑化されることが想定されるため、物理的な動きとデジタルの動きを組み合わせれば、さらに分析できる領域があると考えたからです。これはマイクロソフトさんも気づいていなかったことです。

一方、人材の流動性が高まる中で情報漏洩などセキュリティ面に課題を抱えるため不審な動きがあれば検知できることも望まれていることです。マイクロソフトさんは、セキュリティに関して米国企業であるため一日の長であり、見識やポリシーを導入しながらシステムを外販するという流れもあります。協業ではオフィス、製造業、ヘルスケアそれぞれの分野で人材交流にも取り組んでいます。

--現状だと製造業におけるIoTの事例が少なく、PoC(概念検証)レベルに終始していると思いますが、どのように感じていますか?

市村氏:海外に生産拠点を移したがために国内工場がマザー工場と位置づけられ、自動化された最新鋭の設備を導入することが多く、IoTというよりも設備を導入した方が直接的なコスト低減につがると考えているからです。

  • コニカミノルタ 産業光学システム事業本部長 ビジネスイノベーションセンターの市村雄二氏

また、基幹システムとMES(Manufacturing Execution System)、各設備・装置、制御センサなどを刷新しますが、これもIoT的ではありません。IoTはセンサで取得したリアルタイムのデータをもとに効率化します。ただ日本企業だと、どうしても最新鋭の設備を導入しがちなため浸透しにくのかもしれません。

さらに、新しい設備はIoTに対応しているが、古い設備は対応していない場合です。古い設備を廃棄できず、設備投資に躊躇してしまいます。しかし、センサを設置し、稼働状況を把握するだけでも古い設備をIoT化できるのです。加えて、トップダウンによるものも大きく、文化・風土的に課題を抱えている側面があります。

--そのような状況を踏まえ、中小企業ではさらにIoTに踏み切れな側面がありますが、アセスメントから保守・運用までのワンストップでのサービス提供は考えていますか?

市村氏:大企業でも1つ1つの工場は中小企業規模のため、現場と工場長、経営層の考え方が違います。

単純にアセスメントし、課題がありますねという議論は二の次で、まず初めにやるべきことは現場、工場長、経営層それぞれの立場の人が何を課題にしているかのすり合わせをし、優先順位を設定することです。その後、技術的な議論などを進めるのです。

課題をすり合わせ、優先順位を決めて実行し、基幹システム、MES、各設備・装置、センサなどを1つにまとめた形で支援できます。この点については大手のIT企業ができない範囲です。

--コニカミノルタとして、企業のIoT化に対して訴求できることはどのようなものでしょうか?

市村氏:リアルタイム性の高い価値です。売上増加やコスト低減などは当たり前の話であり、われわれが意識しているのは従業員の“クリエイティビティ”が向上するか否かです。

サステイナブルなモデルを考えた場合、職場環境が従来よりもクリエイティビティを実現していることが重要です。

われわれは組織にとって価値のある人材の可視化を実現でき、そこが差別化しているポイントだと考えています。そのためITサービスの企業を買収した上で内製化した上で、社内で実践したものを外販していきます。

マイクロソフトさんに期待していることは、エッジとクラウドの連動性を高めることです。クラウドに対して、ネガティブな企業であってもセキュリティの担保などを共同で取り組み、システムを導入していきたいと考えています。

--今後の方向性について教えてください。

市村氏:コニカミノルタの売上比率は海外8割、国内2割となっています。そのため、グローバルパートナーとは国内外で事業を展開していきます。

各地域で開発・提供するソリューションを、全世界に展開できるようにしていくことが優先順位としては高いです。マイクロソフトさんとは世界の各地域で協業し、今後は一層拡大していくものだと考えています。