人類が初めて月面に到達したあの「アポロ11号」から50年。当時の映像と音声を元に、このアポロ11号の9日間を追ったドキュメンタリー映画「アポロ11 完全版」が日本で公開される。7月16日、都内で記念イベントが開催され、自ら宇宙開発を手がける堀江貴文氏らが登壇、この映画の魅力などについて語った。
本物だけで作ったリアルなドキュメンタリー
アポロ11号は、ニール・アームストロング船長、バズ・オルドリン宇宙飛行士、マイケル・コリンズ宇宙飛行士の3名を乗せ、1969年7月16日に打ち上げられた。月面には、同20日に着陸。世界で初めて、月面に人類の足跡を残した。地球には同24日に再突入。3名の宇宙飛行士の生還には世界中が熱狂した。
これまでアポロ11号については、多くの映画によって語られてきたが、この「完全版」の大きな特徴は、あえてナレーションやインタビュー映像などを追加せず、当時の映像と音声のみで構成したことだ。
そのため、内容は全て史実通り。それ以上でもそれ以下でもない。打ち上げ前から、帰還後の様子までを、93分間、ひたすら丁寧に描いていく。ただ、本物の映像ゆえに、臨場感は圧倒的だ。映像の色調は50年の歴史をやや感じさせるものの、4Kリマスターの映像は50年前とは思えないほどの迫力。映画館の大画面では、それがさらに活きるだろう。
アポロ11号と言われて思い浮かぶのは、サターンVロケットによる大迫力の打ち上げ、燃料が尽きそうな中での緊迫した月面降下、アームストロング船長によるあの有名な台詞、パラシュートを開いて太平洋上に着水するカプセル、などのシーンだろう。
アポロ11号ほど有名なミッションにもなると、すでに様々なコンテンツを見ていて、「ほとんど知っているつもり」になってしまいがちだ。しかしこの映画は、イベント間のあまり注目されることの無いシーンまで、9日間の出来事を細かく拾っていく。アポロをリアルタイムで経験していない世代が、当時の興奮を肌で感じるのには、最適なドキュメンタリーといえるのではないだろうか。
この映画では、米国の国立公文書記録管理局(NARA)と航空宇宙局(NASA)から新たに見つかった、大判の70mmフィルムのアーカイブ映像も使われたとのこと。その中には、これまで専門家も見たことが無かった映像も含まれているという。堀江氏は、「とにかく映像が綺麗だった。こんなによく撮っていたな」と、驚いた様子。
記念イベントには、堀江氏のほか、宇宙飛行士の山崎直子氏、SPACE WALKERの眞鍋顕秀CEOも登壇。アポロ11号と同じ39A発射台から、スペースシャトルで宇宙に飛び立った経験がある山崎氏は、「いまはSpaceXがその発射台をレンタルして民間のロケットが飛んでいる。時代の流れを感じながら見ていた」と感想を述べた。
一方、眞鍋氏は、SPACE WALKERで有翼機の開発を進めているところ。「月面着陸から50年が経った今も、それが当たり前になっていない。我々とは規模がまったく違うとはいえ、有人宇宙飛行を目指す一企業としては、しっかりやらないといけないと重責を感じながら見ていた」とコメントした。
この映画は、全て実際の映像と音声で作られていることは前述の通りだが、これについて、堀江氏は「普通の映画は作りものなのでたまに粗が出るが、これは本物だからまったくウソが無い」と賞賛。「知識として知ってはいたが、本物の映像でここまで見たのは初めてだった」と述べ、当時の技術者たちの偉業を振り返った。
山崎氏は、自身のフライトを思い出し、「宇宙は憧れの場所だったが、実際に行ってみると、空気も水もある地球こそが憧れの場所だった」と述べる。「そんな感覚まで分かるので、ぜひ見て欲しい。歴史が好きな人も、人間ドラマが好きな人も、技術が好きな人も、いろんな観点で楽しめる」と、お墨付きを出した。
アポロ11 完全版は、7月19日より、109シネマズ二子玉川ほかで全国ロードショー。
日本の民間宇宙輸送機の開発状況は?
堀江氏はインターステラテクノロジズ(IST)、眞鍋氏はSPACE WALKERで、実際に宇宙機を開発中。イベント後の囲み取材では、開発の最新状況について聞くことができたので、最後に追加しておこう。
ISTは現在(7月18日時点)、7月20日に観測ロケット「MOMO」4号機の打ち上げを実施する予定。アポロ11号の月面着陸と同じ日になったのは、先週の延期で「たまたま」(堀江氏)なのだが、記念すべき日に成功させ、世界にアピールしたいところだ。
今回の4号機は前号機とほぼ同じ設計だったが、今後、改良を進める計画だという。「次号機かその次くらいでは、現在のバージョン0からバージョン1にアップデートする予定。これは推力増強型になり、投入できる高度を200~300kmまで上げて、もっと重いペイロードも運べるようにする」(同)とのことだ。
同時に、軌道投入ロケット「ZERO」の開発も進めている。ZEROのエンジン開発においては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がパートナーとして協力しているが、現在は「JAXA角田宇宙センターが持つ技術をどうすれば低コストで実現できるか」という点などに注力して研究しているところだという。
一方SPACE WALKERは、有翼機による宇宙旅行を2027年に実現する計画。その前段階として、無人の小型実験機「WIRES」シリーズによる飛行実証を行っているところだが、重量1トンクラスに大型化した13号機と15号機の打ち上げ実験を、来年以降、米国のモハベ砂漠で順次実施する予定とのことだ。
その後2022年には、高度100kmに到達する無人のサブオービタル機を開発する計画。現在、JAXA、IHI、川崎重工などと連携しながら基本設計を進めており、「機体の規模がほぼ決まってきた。次のフェーズとして資金調達を行い、早く製作するところに入りたい」(眞鍋氏)ということだ。
両社には現在、大学生のインターンも多く参加しているとのこと。堀江氏は、「アポロ時代は、宇宙開発に関わろうと思ってもハードルが高かった。しかし今は、高校生や大学生でもすぐに関わることができる」、眞鍋氏は「宇宙はもう遠い存在ではない。関わろうと思えば関われる機会は多い」と述べ、若者の積極的な参加を呼びかけた。