Dynabookは7月9日、多様化する現在のIT環境やWindows 10などをテーマに、「dynabook」製品群や生産性向上のための各種ソリューションを紹介するイベント「dynabook Day 2019」を開催した。
イベントでは各界の有識者を講師に迎えたセミナーも行われた。ここでは、そのうちサイエンス作家/理学博士の竹内薫氏による「未来に勝ち残る企業、AI時代に求められる人材とは?」の様子をお届けしよう。
AIで消える仕事、残る仕事
作家として活躍する一方で、自身が設立したフリースクール「YES International School」の校長としてプログラミング教育を実践するなど、多岐にわたる活動を続けている竹内氏。セミナーでは、その30年におよぶサイエンスライターとしての実績や、教育者としての経験をもとに、独特のわかりやすい語り口で「AI時代に求められる人材」を解き明かしていった。
竹内氏は、まず、現在「第4次産業革命」が進行中で人工知能(AI)やIoTなどが産業を大きく変革しており、誰にもその終着点が見えていないことを指摘。そうしたなかで生き残っていくためには「哲学」が必要だと語った。
続いて、昨年アメリカのシアトルにオープンしたレジなし店舗「Amazon Go」などの例を挙げながら、AIが普及するとレジ打ちや会計計算、役所の書類仕事などの定型的な業務のニーズが減り、コンサルタントや教師、医師、聖職者のように人間同士のコミュニケーションが必要な仕事が残っていくとした。
また、AIは過去のパターンをもとに結論を出すため、1回限りの判断や想定外の事態に対応できず、マーケティング責任者や経営者などをAIで置き換えることもできないと説明した。
人間とAIの棲み分け
竹内氏によれば、人間の脳にはAIに似た機能があり、間違った情報を与えても、それまでに蓄積したデータをもとに自動修正することができるという。
たとえば「こんちには みさなん おんげき ですか?」という文章を見ても、頭の中で「こんにちは みなさん おげんき ですか?」と修正して理解できるのがその一例。しかし英語を母国語とする外国人がこの文章を見て同じように自動修正するのは困難。つまり自動修正には日本語に最適化された脳が必要となる。
これはAIに記憶や自動化などで対抗しようとすると膨大なデータを蓄積しなければならないことを意味する。しかし人間の脳の容量は0.5GB程度と言われており、スマートフォンやノートパソコンの記憶容量にすら遠く及ばない。そこで竹内氏は、こうしたAIが得意とする部分で競うのは良手ではないと指摘する。
それでは、人間が得意でAIに苦手なことはなんだろうか? 竹内氏はそれを「人間同士のコミュニケーションでしか得られない知識」つまり「常識」だと語る。実際、国立情報学研究所が中心となって研究が進められた人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか(東ロボくん)」では、人間なら誰もが回答できるのにAIにはどうしても解けない問題が存在したという。つまり、人と人とのコミュニケーションを通して身につける常識やそれをもとにした発想がAI時代に勝ち残る「鍵」になるというわけだ。
それには、現在の日本で行われている暗記中心のプロイセン型教育では限界があると竹内氏はいう。実際、現在世界ではそれに代わる新しい教育法がトレンドになりつつある。たとえば、アメリカのカリフォルニアにある「High Tech Highスクール」では、学年の区別や学科の区別が曖昧で、教科書やテストも基本的に存在しない。その代わり課題を設け、生徒たちが1年をかけてその課題を探求するプロジェクト型学習が取り入れられている。
その過程で子どもたちは歴史や物理学などの知識、常識、問題解決能力、ディベートなどさまざまなことを能動的に学んでいく。
AI時代には、こうした自分で考え、自分で知識を取りにいき、自分で工夫する「クリエイティブな発想力」が必要になってくる。竹内氏が校長を務めるYES International Schoolでも同様の教育を取り入れているそうだが、子どもたちの反応が従来型教育の場合とまったく異なるとのこと。教師からの指示や答えを待つことがなくなり、自分で考えて解決しようとするのだとか。
同じことは学校教育に限らず会社の人材教育にも言える。竹内氏は「こうした観点から人材教育を進めていかないと、将来的に日本は世界と互角に戦えなくなる」と警笛を鳴らし、「激変する未来に生き残るには、クリエイティブに変化し続けることが大切」と指摘して、セミナーを締めくくった。