仮想化基盤のバックアップで知られるスイスVeeam Softwareは5月、年間受注額が10億ドルを超えたことを発表した。同社の成長エンジンは日本だ。そこで、「売り上げは2.5倍で伸びている」という日本法人を率いる古舘正清氏(ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長兼バイスプレジデント)に話を聞いた。
年間受注額が10億ドルを超えたと発表しました。アジア太平洋が急成長しており、中でも日本の成長率はトップです。成長はどこからきているのでしょうか?
古舘氏:1年半前に現職に着任して以来、日本市場の業績は年2.5倍で伸びている。自己採点すると100点つけていいと思っている。2.5倍は難しいが、今後も2倍成長は続けられると予想している。
成長の背景として、まずはバックアップは保険のように考えられることが多く、システムごとにサイロになっているという状況がある。長い間そういう形でバックアップをとってきたが、クラウド時代になり、クラウドを使ってデータ管理をしたいという要望が出てきている。
また、これまでデータは100%オンプレミスにあったが、クラウドへの移行が始まっている。「Microsoft Office」はサーバを立てて運用してきたが、「Office 365」ではデータはクラウドにおく。このような状況の中で、全体を見直す必要があるという問題意識が出てきている。
一方で、日本のお客様の多くがシステムインテグレーター(SI)の言う通りにバックアップを購入していたが、何をツールで使っているのか認識すらしていない状況がある。従来使っているツールは統一されておらず、どう再構築していいかわからない。データがクラウドにいく中で、どうやってデータを管理するのかーーそこで「問題だ」と気がつくお客様が増えている。Veeamが提唱する”データマネジメント(管理)”という言葉は、”データ活用をどうするのか”と思われがちだが、クラウドを含めたデータ活用をどうするのか、デジタルビジネスでのデータをどうやって管理するか、だ。これまで考えていなかったというお客様が多く、一緒に考えましょうというのが我々のアプローチだ。
Veeamは仮想基盤向けのバックアップでスタートしたが、プライベートクラウドは仮想基盤が前提になっている。それとパブリッククラウドを含む統合的なデータ管理のソリューションを持っているという点が評価されている。
顧客だけでなく、パートナーも同じように、クラウドを介したデータ管理にはVeeamがいいのではと評価いただき、販売促進をしていただいている。
パートナーの数は?
古舘氏:登録パートナーの数は500社近くになっており、その中でも実際に販売していただけるパートナーの数が増えている。
これまで他社メーカーのバックアップをメインで提案していたSI事業者の中で、Veeamをメインに変えて提案していこうというところが増えてきている。
HCI、VSANとの親和性でも圧倒的にVeeamが優れているし、Microsoft AzureについてはグローバルでAzure上のバックアップソフトに(Veeamが)選ばれるケースが多い。MicrosoftはVeeamのようなソフトウェアベンダーと一緒にAzureのプロモーションを展開しているが、VeeamのソリューションはTOP 3に入るISVといわれている。日本はこれからで、日本マイクロソフトと共同でAzureへのバックアップをプッシュしていく。「Windows Server 2008」のサポート終了が近づいており、その後のシステムをどうするかという懸念があるが、MicrosoftとVeeamとでそのような懸念にも対応していく。
10億ドル到達と合わせて、”アクト2(第二章)”としてハイブリッドクラウド時代のデータ管理を打ち出しました。日本でハイブリッドクラウドのメッセージは訴求できると見ていますか?
古舘氏:アクト2の世界がこれから始まり、さらに勢いが加速するだろうと予想している。
日本でもパブリッククラウドの活用は加速している。これまではパブリッククラウドにのせるのはクラウドネイティブのアプリケーションがほとんどだったが、現在は基幹業務もパブリッククラウドに乗せる考え方をする企業も出てきている。フェーズは変わってきたと認識している。
VMware Cloud on AWSをはじめ、VMwareベースのオンプレミスがそのままパブリックに乗るサービスも始まっており、Veeamには追い風になっている。
Google Cloudは?
古舘氏:日本では圧倒的にAWSかAzureかが多い状況だが、問い合わせもいただいている。本社は対応を検討しているだろうし、時間の問題と見ている。
セカンダリストレージのためのwith Veeamプログラムの下、Nutanixなど2社と提携しています。日本市場でのニーズをどう見ていますか?
古舘氏:日本でもセカンダリストレージの需要は今後確実に上がってくると見ている。特に大企業を中心に、セカンダリストレージの考え方は徐々に進んでいくのではないか。一気に爆発的に広がることはないかもしれないが、メッセージとしてはいいタイミングで出たのではないかと思っている。
with Veeamのようなアプライアンス的なものを日本のメーカーと一緒にやるようなことは考えているのでしょうか?
古舘氏:Veeamはハードウェアは手がけないので、国産ハードウェアベンダーとVeeamのソリューションを組み込んで販売していただくようなことは視野に入れている。セカンダリストレージではないかもしれないが。
大手エンタープライズ企業はカスタマイズしたシステムを好むだろうし、SMBは固定的な構成で十分というところが多いだろう。ハードウェアベンダーと組んでやるのは、どちらかというと後者の需要に対して対応する形になる。
競合をどう見ていますか? Rubrikが急成長しています。
古舘氏:海外はRubrikの勢いがあるようだが、日本はそれほどではない。Rubrikは1台のアプライアンスで全てできるので、いい製品だと思う。だが日本は欧米のようにITの専門家が自分で決めて自分で実装する形ではないので、製品の良さはわかっていても導入に踏み切る企業は限定的かもしれない。
日本法人の優先順位は?
古舘氏:体制的には、エンプラの顧客に採用してもらえるように営業を強化していく。ここが一番のフォーカスとなる。それにあたって、パートナーも、富士通、IBM、CTCなど大手エンタープライズを担当するパートナーとの協力が増えているし、今後も増やしていく。
同時に、市場のカバレージも広げたい。ここでは、ディストリビューターと共にやっていきたい。先にSB C&S(旧「ソフトバンク コマース&サービス」)などに新たなディストリビューターにになっていただいた。市場のカバレージを広げていける体制ができたと思っている。今後効果が出てくるだろう。
我々は"バックアップ"という言葉は使わず”クラウドデータマネジメント(管理)”という言葉を使っている。バックアップというと、問題意識を持っていただけないが、クラウドデータ管理というと問題意識を持っていただけるからだ。ここは重要だと思っている。データ管理について考え直してもらう重要な局面にいると言う意味も、”アクト2”には込められている