独フランクフルトで開催されたISC 2019において、53回目のTop500が発表された。フランクフルトは欧州中央銀行(ECB)の本部があるヨーロッパの金融の中心都市である。
ISC 2019の会場となったフランクフルトメッセは10個以上の大規模ホールを持つ巨大な展示場で、入口近くに鉛筆のようにてっぺんが三角に尖ったシンボルタワーがある。
ISCは10余りのホールのうちの3号館で展示を行い、フォーラムという会議場のビルで基調講演やTop500の発表、論文の発表などが行なわれた。
なお、ISC 2019では164の展示ブースが並んだが、それでも3号館の3/4程度のスペースで、残りの1/4ぐらいのスペースはランチスペースに使われていた。
第53回 Top500では、上位4システムの順位は前回から変動はなく、1位が米国のOak Ridge国立研究所のSummit、2位が米国のLawrence Livermore国立研究所のSierra、3位が中国の無錫スパコンセンターの神威・太湖之光、4位が中国の国防科技大の天河2Aであった。しかし、首位のSummitは前回の2,397,824コアから2,414,592コアにコア数を増やし、HPL性能を143,500TFlopsから148,600TFlopsに伸ばしている。
今回、新しく5位になったのはテキサス大のTACCに設置されたFronteraである。Xeon Platinum CPUを使うスパコンで、448,448コアで23,500TFlopsのHPL性能をマークしている。
日本の産総研のABCIは1つランキングを下げ、Top500では8位となった。そして、前回11位であったLawrence Livermore国立研究所のLassenはコアを追加して性能を引き上げて今回は10位に食い込んだ。
発表会場では、1位のSummitを運用するOak Ridge国立研究所と、Power CPUを作ったIBM、V100 GPUを作ったNVIDIAの関係者が表彰された。
一方、電力効率を競うGreen500は、前回と同じスコアの17.6GFlops/Wで理研/PEZY/ExascalerのShoubu System Bが1位を確保したが、表彰を受ける関係者はISC 2019に参加しておらず、寂しい表彰であった。なお、Shoubu System Bは、前回はTop500は367位であったが、今回は471位とかろうじてTop500に残りGreen500に残る基準を満たした。
次の表にGreen500のTop10を示す。ここで\*がついているのは、電力効率を最大にする設定(一般にはクロックを下げてHPL性能を多少下げた方が電力効率は良くなる)での測定である。
3位にTop500のトップスパコンであるSummitが入っているのは大したもので、大規模なスパコンでも高い電力効率を実現することができることを実証している。また、日本国内最大の産総研のABCIもSummitに続く4位と健闘している。
そして、新規に7位に登場したPangea IIIは、 Green500で7位だけではなく、Top500でも11位という大型スパコンで、フランスの石油探査大手のTotal Exploration Productionが所有し、ビジネスとして石油探査に使われているスパコンである。
Top500のランキングに使われているHPLの計算が実際のアプリケーションとかけ離れてきているという指摘から作られたHPCGは係数が疎行列の巨大な連立1次方程式を反復法で解くプログラムである。
このHPCGのランキングは、1位はSummit、2位はSierraであるが、京コンピュータが3位に残り、表彰を受けた。
京コンピュータは第37回 Top500で1位を獲得したスパコンであり、普通なら、5年程度で更新されるスパコンとしては、驚異的に長く使われている。そして、単に使われただけではなく、長くHPCGトップの座を守り、今年の夏に予定されている退役までHPCG 3位を守り続けたのは驚異的な記録である。もちろん、チューニングで性能を上げてきた九州大学の藤澤先生の貢献が大きいのであるが、それを可能としたという意味でも、京コンピュータは優れたマシンであったと言える。