現代社会においてデジタルが活用される理由は、バイナリー情報の作成、交換、保存、読み出し、操作が容易に行えるということにあります。
もし電子機器が今でもアナログデータだけに依存していたならば、進歩は大幅に遅れたことでしょう。例えば、業界ではアナログデータを生データのまま、少なくともデジタルで保存するだけの密度と耐久性に匹敵する性能で確実に保存する方法を見出せてはおらず、将来この方向に注力することもないと言えるでしょう。デジタル技術を利用することは、情報をデジタルからアナログへ、アナログからデジタルへ変換する必要があることを意味しますが、デジタルデータは再現性があるため大きな負担にはなりません。
基本的に、データをデジタルで保存する場合の手法においては、除去可能な誤りの許容範囲を利用しています。半導体では、データの保存には一般的に、比較的広いアプリケーションで電荷を保持する必要があります。
回路は電荷を検出し、各論理レベルに対して定義される上限・下限の範囲内に収まる値を論理0または1のいずれかとして解釈します。しかし、アナログ値を正確に保存することは、電荷のストレージにばらつきがあるため、難しいのが現状です。
書いたり消したりが自由にできる不揮発性ストレージとして、半導体業界ではフラッシュとEEPROMの2種類の技術が活用されています。いくつかの側面から、EEPROMはすでに過去のソリューションと考えられていますが、特定の要件が課される一部のアプリケーションでは大きなメリットがあるのも事実です。また、技術の進化にともない、これらのメリットは間違いなく将来の技術であっても適用できるようになってきています。
メモリについて
フラッシュメモリは、用途として民生分野のマルチメディアアプリケーションに適しているという点がメリットとして捉えられています。この分野における主な要件は、より大きな記憶容量とそこそこ高速な読み出し/書き込み速度、そしてコストであり、フラッシュ技術はこれら各要件を満たすよう、進化が続いています。例えば、8ピンSMDパッケージに実装された32GbitのNOR型フラッシュデバイスは、多くのアプリケーションにおけるニーズを満足しているように思われます。しかし、EEPROMと比較した場合、デメリットも存在します。
第一に、EEPROMは、エンデュランス、すなわち読み取り-書き込みサイクル数に関しては、一般的なフラッシュに比べて、より高い値を達成しています。また、データのリテンション(保持時間)も重要であり、これについてもEEPROMの方が優位性があります。ただ、エンデュランスとリテンションは、ともに民生用アプリでの重要性は低いのが実情です。しかし、分野によっては、メモリの容量や速度よりも、高いエンデュランスとリテンションが重要な場合があります。このような場合は、EEPROMのほうがフラッシュよりも優れていると評価することができます。
一般にメモリの耐久性の犠牲となるのは性能です。フラッシュはどちらかといえばEEPROMよりも高速に動作(読み出し/書き込みともに)しますが、メモリアクセス方法に条件が付きます。通常、フラッシュメモリはブロック単位でアドレス指定されますが、EEPROMはバイト単位でアクセスされます。
これらの特性は産業、医療、車載といった幅広い産業用アプリケーション分野では重要なものとなります。実際、データのリテンションがセーフティクリティカル(安全性が最重要項目)と見なされる場合、選択肢として望ましいのはフラッシュよりもEEPROMとなります。
EEPROMが車載用に使用される理由
車載市場で課せられる基本要件の1つは、あらゆる電子部品に対して、車載電子部品評議会が作成した規格(一般にAEC-Qと略される)に適合することです。この規格では、特に動作温度範囲など、ストレス試験の多くの側面が取り扱われています。
車載用アプリ向け半導体製品の大部分は、エンジンルーム内に取り付ける予定であればグレード1が最低要件となります。グレード1では、部品は-40℃~+125℃の動作周囲温度の範囲で故障なしで機能する必要があります。フラッシュメモリは、多くの場合、グレード3(-40ºC~+85℃)またはグレード2(-40℃~+105℃C)を取得しており、グレード1を取得することはほとんどありません。
一方、EEPROMは使用している半導体プロセスによりますが、より広い温度範囲で確実に動作するのに適しており、例えばON SemiconductorのEEPROM「NV250x0LV」などでは、グレード1の温度要件を満足するだけでなく、他のEEPROMよりも低い1.7V電源での動作も可能です。これは車載市場における新たなトレンドに対応するために重要な要素となっています。
また、グレード0と定義される-40℃~+150℃の動作周囲温度範囲を満足する新たなシリアルEEPROM(8Kビット品「NV25080」、16Kビット品「NV25160」、32Kビット品「NV25320」、64Kビット品「NV2564」)の開発にも成功しました。このことは、他のパラメータを規定するのに利用できるため非常に重要な成果と言えるものです。
車載用アプリケーションにおける新たなトレンド
これらのグレード0対応シリアルEEPROMは、車載市場の新たなトレンドにとって重要な存在になります。自動車メーカーなどでは、現在、EEPROMを用いて、幅広いドライバの特徴に関する設定やキャリブレーションデータの保存を行っていますが、自動運転の実現に向け、これらの機能もさらなる進歩が求められている一方で、セーフティクリティカルも重要になってきており、そうしたセーフティクリティカルなアプリでは、グレード1では不十分として、グレード0の製品に対する要求が高まってきています。
ON Semiconductorの視点から言えば、このグレード0 EEPROMは、高度なエンデュランスとリテンションを実現するために開発されたもので、400万回の読み取り/書き込みサイクルのエンデュランスと200年のリテンションを提供することを可能とします(25℃の周囲温度環境時)。また、+150℃環境においてもディレーティングされますが、300万回の読み取り/書き込みサイクルと200年のリテンションを実現できることも確認済みで、このレベルのエンデュランスとデータリテンションに匹敵するデータを公開している半導体メーカは他にはないと思っています。
すでに多くの車載用アプリケーションがEEPROMを使用して、通常動作期間に何度も上書きされる可能性がある非常に重要な少量のデータを保持しています。トランスミッション制御ユニットやエンジン制御ユニットなどのアプリケーションのファームウェアやヘッドライトユニットのキャリブレーションデータを保存することを目的とした使用も増えています。こうしたクリティカルな部分での用途開拓に向け、さらなる高信頼化を図るために、誤り訂正符号の機能も備え、単一ビットの故障を検出して、1バイトのデータ中の1ビットを訂正することを可能としています。
高度なエンデュランスの重要性が高まっているのは間違いないところですが、これらの新機能の多くは既存のソリューションにも適用できなければならないため、サイズや電力も要因の1つである点を正しく認識しておくことが大切です。ON Semiconductorの車載用EEPROMファミリーも、実装基板へのはんだ付け状態を目視確認できるように、パッケージのはんだ付けパッドに加工を施したウェッタブルフランクパッケージに対応したUDFN-8やCSP、SOIC-8やTSSOP-8などの幅広いスモールアウトラインパッケージで供給され、生産工程における自動光学検査への対応も可能にしています。
結論
エンデュランスとリテンションは、車載用アプリケーションにおいてさらに重要性が増しており、EEPROMは他のタイプの不揮発性メモリよりも高い信頼性を実現できるメリットを提供し続けることができます。
自動車メーカーが、より多くのドライバ支援機能を実装し、セーフティクリティカルな要素を開発するのにともない、次世代の安全機能の実現において高信頼性EEPROMの活用は不可欠になっていくでしょう。
著者プロフィール
Julio SongON Semiconductor
プロダクトマーケティング・マネージメント
20年以上の半導体業界の経験を有する。2006年に韓国のグローバルアカウントマネージャとしてON Semiconductorに入社、複数のセールスアカウントのマネージャ職を経て、アジア太平洋地域のワイヤレス製品のマーケティングマネージャを務める。
2012年にはPMIC、ロードスイッチおよび監視回路の製品ラインマネージャとして米国アリゾナ州フェニックスの本社に異動、現在は新製品開発マネージャとして、メモリ、ロジック、スイッチ製品を担当している。