さまざまなキャッシュレス決済サービスが登場した今年2019年は「キャッシュレス元年」と言えるが、キャッシュレス市場に火をつけたサービスの1つがPayPayだ。

利用金額の20%が全員に、当選すればさらに全額キャッシュバックされたPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」は大きな反響を呼び、わずか10日間で終了してしまった。このPayPayのキャンペーンで、スマートフォンによる決済を初めて利用した人も多かったのではないだろうか。

そして今年7月、セブン‐イレブンがバーコード決済「7pay」を、また、ファミリーマートが自社のバーコード決済「FamiPay」を開始し、国内のモバイル決済市場の競争がさらに激化することが予想される。

そうした中、PayPayはどのような戦略の下、キャッシュレス決済市場における戦いに挑んでいるのか、コーポレート統括本部 マーケティング本部 広報室 室長の伊東史博氏に聞いた。

  • PayPay コーポレート統括本部 マーケティング本部 広報室 室長の伊東史博氏

    PayPay コーポレート統括本部 マーケティング本部 広報室 室長の伊東史博氏

PayPayしか使えない店舗の開拓に注力

現在、日本の国内の民間支出は約300兆円、そのうち約20%がキャッシュレス決済と言われている。政府は2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%に高めようとしている。

  • 各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015年) 資料:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」

PayPayは、このように拡大が見込まれるキャッシュレス決済市場全体においてシェアを獲得していくことを狙っている。

シェア拡大に向けた戦略の1つが「PayPayしか使えない店舗の開拓」だ。QRコード決済、モバイル決済、電子マネー決済と、キャッシュレス決済の手段はバラエティに富んでいるが、複数の決済手段に対応している店が少なくない。最近は、レジの横に利用可能な決済手段のロゴをいくつも掲示されているのをよく見かける。

PayPayはこうした既にキャッシュレス決済に対応している店のラインアップに加わるだけでなく、まだキャッシュレス決済に対応していない店への導入を目標としている。

「キャッシュレス決済のサービスを比較する際、使える店舗が基準になることが多いですが、その点で、後発のPayPayはまだ勝てません。だからこそ、PayPayだけしか使えない店の開拓に力を入れています」(伊東氏)

ソフトバンクグループの営業力を生かし、全国に20カ所の営業支社を構えている。「地方に行くと、PayPayの営業所しかないことが多いです」と伊東氏。

毎日行ける店でキャッシュレス決済利用の拡大を

もう1つの戦略が「普段使いできる店への導入拡大」だ。ドラッグストア、スーパー、コンビニエンスストアなど、サラリーマンや学生が通勤・通学時に駅から自宅までに通りかかる店への導入を増やそうとしている。

伊東氏は「生活必需品を購入したり、ランチを食べたりといった日常的なシーンで使っていただくことで、PayPayを生活に定着させたいと考えています。こうすることによって、日本のキャッシュレスの比率を高めていければと思います」と話す。

この狙いを拡大するための施策が、第2弾の100億円キャンペーンだった。第1弾のキャンペーンと比べて、1回当たりのポイントバックの上限を引き下げることで、長期間少額の決済に利用してもらうことを狙っていた。

キャンペーンの効果を聞いてみたところ、「第2弾キャンペーンが終了した際、ユーザーの数は一時的に少し減りましたが、すぐに戻り、今では増えています。」と伊東氏。キャンペーンによって喚起されたPayPayユーザーが狙い通り定着してきているようだ。

「お金に触らずに支払いを受けられる」のが魅力

伊東氏は、利用者だけでなく、店舗側にもPayPayはメリットをもたらすと話す。例えば、PayPayは、期間限定ではあるが、初期導入費、決済システム利用料、入金手数料が0円で導入できる。入金のタイミングもジャパンネット銀行なら翌日、その他の金融機関なら最短で翌々営業日となっている。利用者がスマートフォンで店舗のバーコードを読み取る方式なら、特別な機器も不要だ。

専用の機器が必要で、入金も一定期間が必要とされるクレジットカード決済に比べて、店舗側からすると、導入の障壁が低い。

さらに、伊東氏は「飲食店では、お金に触ることなく決済できるのもメリットではないでしょうか」と話す。たこ焼き屋や鯛焼き屋といった屋台では、調理をしながら代金を受け取るケースが多い。現金のやり取りをするとなると、店主はその度に調理から手を離さざるを得ない。これに対し、QRコード決済であれば、店主はお金に触ることなく、代金を受け取ることが可能だ。こうした点が受けて、屋台でもPayPayの導入は進んでいるそうだ。

生活に密着することで、支払いの先につなげていく

最後に、伊東氏にPayPayにとっての課題を聞いてみたところ、「対応している店舗が足りない」という答えが返ってきた。ユーザーは右肩上がりで増えているが、導入店舗の数が追い付いていないのだという。

導入店舗の拡大に向けては、先述したように、キャッシュレス決済のメリットが大きな「手を使っている」業種に注目している。

大規模な導入例としては、自治体とタッグを組んで商店街や島が一斉導入するケースが増えている。例えば、石川県の近江町市場では約130店舗がPayPayを一斉導入した。同市場では、海外からの観光客が増えている一方、若い人が減ってきていることもあり、PayPayの導入に踏み切ったそうだ。

また、与論島でも約100店舗が導入を開始した。島では、現金を下ろせるATMが少なかったり、観光をしているとATMの稼働時間にお金が下せなかったりといったことがある。こうした事情は、観光客に限らず、島民も同じだ。ここでキャッシュレス決済が利用できれば、現金に頼らなくて済む。

伊東氏は「正直なところ、決済だけで利益を出すことは難しいです。生活に結びついた形で、PayPayを使っていただくことで、支払いの先につながるようにしたいと考えています」と話す。

さまざまなキャッシュレス決済サービスの提供が始まっており、どれを使うべきか、悩んでいる人も多いだろう。しかし、世界を見渡すと、キャッシュレス社会は確実に進化している。日本のキャッシュレス化にPayPayが貢献してくれることを期待したい。