キンギョの祖先は約1400万年前に遺伝子が倍になって進化の原動力になってキンギョができた―。大阪大学などの研究グループがキンギョのゲノム(全遺伝情報)を解読してこのような興味深い研究成果をまとめた。脊椎動物の進化解明のほか、人の病気発症メカニズムの研究にも役立ちそうだという。研究論文は27日に米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された。
研究グループには、大阪大学蛋白質研究所・分子発生学研究室の大森義裕招へい教授のほか、国立遺伝学研究所の川上浩一教授、藤山秋佐夫特任教授らも加わった。
研究グループによると、キンギョはコイ科の魚で、約1000年前の中国、宋の時代に野生のフナから育種が始まり、東アジアを中心に数百年間にわたって品種改良が進められた。日本には室町時代に伝来し、江戸時代に盛んに品種改良が行われたという。現在、愛知県や奈良県などの産地を中心に育種が続けられ、デメキンやランチュウ、オランダ、シュブンキンなど数十種類の品種が飼育されている。
動物としてのキンギョと人はずいぶん遠い存在に思えるがいずれも脊椎動物の仲間で、体の形づくりのメカニズムは共通する部分が多く、共通する遺伝子も多いという。しかし、キンギョは一般の魚の2倍の遺伝子をもつことなどからこれまでゲノム解読は成功していなかった。
研究グループは、1度に1万から4万もの塩基配列も解析できる最新鋭の遺伝子解析装置を活用。キンギョの発生段階の精子や受精卵に特殊な処理を加え、母親由来の染色体しか持たないキンギョをつくって18億塩基対に及ぶゲノム解読に挑戦した。
その結果、ゲノム解読に成功し、キンギョがまだ祖先種(フナの仲間)だった約1400万年前に遺伝子の数が2倍になる「全ゲノム重複」が起きていたことが判明。増えた遺伝子の88%は現在のキンギョに残り、重複前とは別の機能を獲得していることも明らかになったという。
全ゲノム重複は、生命進化の長い歴史の中で約5億年前に起こった現象で、脊椎動物の進化の原動力と考えられている。しかし重複した遺伝子がどのように進化して脊椎動物のゲノムをつくり上げているかなど詳しいことは分かっていなかった。
研究グループは、今回の成果を基に全ゲノム重複の後の脊椎動物の遺伝子進化メカニズムを解明する手掛かりが得られるとしている。また、キンギョの品種には人の病気と似た症状をもつものがあるため、人の病気の原因解明や診断・治療法の確立に役立つ可能性も期待できる、としている。
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