4月9~11日にかけて中国・深圳でアジア最大規模のエレクトロニクス/ITに関する展示会「CITE2019(第7回China Information Technology Expo)」が開催された。情報技術に関する様々な展示がなされ、中国のIT産業の全体像が良く判る。中でもディスプレー関連の展示が、テーマ館である1号館と新型ディスプレー館の2号館で行われ、中国の主要なセットメーカやパネルメーカが揃い、日本からはジャパンディスプレイ(JDI)やシャープ(鴻海ブース)、韓国からはLG Displayが出展して、大画面8K-TVからFoldable OLEDまで様々な最先端のディスプレー技術や製品を展示・デモを行った。
折り畳みOLEDスマホに一気に参入する中国メーカ
もっとも参加者の目を引いたのが、大画面テレビやFoldable OLED(折りたたみ可能な有機EL)などの華やかな展示である。特に、今年になって注目を浴びている折り畳みスマホ用のFlexible OLEDパネルに関しては、中国のすべてのディスプレーパネルメーカが、対応するOLEDパネルの展示とデモを行った(図2)。Royole、Samsung、Huaweiが相次いで折り畳みスマホを発表し、さらには中国の多くのセットメーカからも折り畳みスマホ発表が予定されている。中国製スマホには中国製OLEDパネルの供給も噂されており、直近ではSamsungが搭載されるOLEDパネルの品質で発売を延期したのを横目に、中国製の折り畳みスマホが真っ先に市場に入り込んでくることも予想される。
大画面ディスプレーでも中国各社が先端技術に挑戦
Flexible OLEDに負けず華やかなのが大画面ディスプレーである。注目を集めている8K-TV、OLED-TV、QLED-TV(QDシートLCD-TV)といった商品は、中国の各セットメーカが当たり前の様に展示しており、すでに見慣れた光景になってしまった。今回新たに見かけたのは、中国メーカ各社が新たな先端技術にチャレンジし始めたことである。
Skyworthが透明OLED-TVを展示したほか、CSOTとBOEは液晶パネル2枚を使ったDual Cellを展示。さらにCSOTは、ミニLED透明ディスプレー、31型印刷透明OLED、43型のLight Field Display、Q-Cell(QDと偏光板を組み合わせた)等々の新しいディスプレー技術に果敢に挑戦している事をアピールしていた。
併設セミナーでディスプレーメーカ各社が技術と戦略を披露
CITE2019では、併設のセミナーでも多くの情報を得ることができる。今回開催されたディスプレー関連のセミナーは2日間にわたって、「スマート商用ディスプレー」「Flexible/Foldable AMOLED技術」「国際ディスプレー産業」「量子ドットディスプレーの技術と応用」の4つのテーマで開催された。
ディスプレーメーカだけで無く中国現地の部材メーカや設備メーカからの発表もあり、中国から見たディスプレー産業の現状と今後の方向性を読み解くという視点で貴重な内容であった。
「Flexible/Foldable AMOLED技術」では、パネルメーカ各社が展示館のデモ展示を行うだけでなく、Flexible/Foldableを実現する際の技術的課題などを細かく紹介していた。Flexible/Foldable AMOLEDに関しては、これまで韓国勢が先行していたが、中国メーカも単なる模倣ではなく部材メーカの協力を得ながら課題を解決していこうとする姿勢を、発表内容から感じ取ることが出来た。
Flexible OLEDパネルは、これまでSamsungがスマホ用の技術で先行し、中国のスマホ市場でも独占的なポジションを占めてきたが、ここに来て急激にその存在感を失っている。今回のCITEで披露されたように中国パネルメーカの技術も追いついてきており、製造の歩留まりも上がってきた様だ。中国メーカが次のFoldable OLEDで主導権を握る可能性も十分ある。
「TVは死んだ」、しかし「DoT」で生き返る
大型のOLED-TVでは、未だLGが技術も市場もリードしている。LG Displayは、これまでにも中国各地で開催される主要なディスプレー関連の展示会やセミナーなどに積極的に参加し、エグゼクティブ自らがアピールするなど、OLED陣営の仲間を増やそうという地道な努力をしてきた。そうした取り組みからは、OLED陣営の仲間を増やして市場を拡大しようという真摯な姿が感じられる。
今回のCITE2019の併設セミナーでも、常務のKo KyuYeong氏が登壇し、OLED-TVで新しい市場を作っていくことの必要性を切々と訴えていたのが印象的であった。その講演の中で述べられた2つのキーワードがある。「TVは死んだ」と「DoT(Display of Things)」の2つのメッセージである。
「TVは死んだ」が意味するところは、LCD-TVが産業として成熟し市場の成長率も頭打ちになる一方、製品単価は下がり続け、もはや正常な事業にはなり得ていないという指摘である。ディスプレー産業がこの先も生き残っていくためには何をしなければいけないのだろうか? 業界は総じて大画面8K-TVに活路を見いだそうとしているが、それは正しいのだろうか?。大画面化・高解像度化の競争はディスプレー産業がこれまでずっと追ってきた道のりであり、その結果が現在の産業の姿である。ディスプレー産業が今後も持続的に成長していくためには、新たな価値を創り出さなければならない。それがOLEDであり「DoT」であるというのが、Ko氏の主張である。
ディスプレーは人々のコミュニケーションの重要なツールであり、人と人、人と物をつなぐ重要な役目を担っている。今後の重要な産業の方向である5G、AI、ビッグデータなどはディスプレーを通してその有用性を人々に可視化することができる。インターネットを介してすべての物がつながるIoTも、ディスプレーがなければ我々にその効能が見えてこない。そしてディスプレー自身もインターネットにつながり、表示だけでなく入力機能も持たせた端末として広まっていくだろう。この状況を「IoD(Internet of Displays)」と呼ぶ場合もある。このようなディスプレーの存在価値をさらに高めていくことが、ディスプレー産業の継続的な価値の創造につながることだろう。
著者プロフィール
北原洋明(きたはら・ひろあき)テック・アンド・ビズ代表取締役
日本アイ・ビー・エムにて18年間ディスプレー関連業務に携わった後、2006年12月よりテック・アンド・ビズを立ち上げ、電子デバイス関連の情報サービスを行っている。
中国のディスプレー関連協会の顧問などもやりながら産業界の動向や技術情報を整理し業界レポートや講演活動なども行っている。
直近の講演ではマイクロLEDやQD(量子ドット)にフォーカスした日経XTechラーニングを予定している。