アジレント・テクノロジーの社長兼最高経営責任者(CEO)であるマイク・マクマレン氏は6月、日本の複数のメディアの取材に応じ、2019年8月をめどに、大阪に同社のハードウェアやソフトウェアを試すことが可能なラボを開設する計画であることを明らかにした。
同社における日本は米国、中国に次ぐ第3の規模を誇る市場規模で、米中貿易戦争を中心に先行き不透明感が漂う世界経済の中において、比較的安定している市場であるほか、単なる製品やサービスを販売する1地域市場としての存在のみならず、八王子の本社を中心に製品の開発や製造なども行い、世界にそれが出荷されるなど、さまざまな角度での重要地域と位置付けられている。
「2014年にキーサイト・テクノロジーと分離して以降、年率6~7%程度の成長を毎年続けてきた。その背景には、ビジネスのポートフォリオを変化させ、高成長の分野に比重を置く戦略を採用してきたことがある。そうした動きの中で、装置からサービスへと領域を拡大してきたほか、がんの診断薬やCrossLabといったサービス分野の比重を増やしてきた。企業買収もそうした取り組みの一環で、設備投資と併せてこれまでの4年間と2019年前半併せて約20億ドルをそうした取り組みに費やしてきた。2020年には米国コロラド州に、1億8500万ドルをかけたオーファンドラッグなどの医薬品の原料を製造する工場が稼働する予定。2019年8月には大阪に、八王子のセントラルラボのような機能を持ったラボを開設することも、そうした取り組みの1つとなる」とマクマレン氏は、大阪のラボ開設の背景を説明する。
地域的に大阪を選んだのは、関西方面に国内有数の化学薬品メーカーや食品メーカー、大学や研究機関などが複数存在しており、そうしたユーザーがすぐに装置やソリューションを活用したり、試してみたい、と言うニーズに対応するため。当初は、自社の液体クロマトグラフ(LC)や液体クロマトグラフ質量分析計 (LC/MS)など、既存製品を活用できるラボとなる見通しだが、将来的には買収したさまざまな企業の装置やソリューションなどもそこで試すことが可能になるという。
「これまでLCやLC/MSを使う人というと、研究のプロであったりしたわけだが、最近は、学位を持たない単なるオペレータという人も登場するようになってきた。そうした人の増加に、我々、機器ベンダとしても、単に高性能の機器を提供するのではなく、使い勝手の面であったり、サービスの拡充であったり、ラボの稼働率を向上させるための支援であったりといったさまざまな角度からのサービスの拡充を図ることを重要視して取り組んできた」と自社が単なる分析機器を提供するだけでなく、サービスの拡充も進めていることも強調。それを推進していくに当たって、One Agilentをいう標語のもと、社内のカルチャー育成と、それに基づく人材育成も進めてきたとする。「企業が成長や高い利益を生み出せるのは、そこで働く人たちが、それを成し遂げてくれるから。だからこそ、人、という部分を重視した環境の整備を進めてきた」(同)。
こうした考えは、企業を買収する際の指標にもつながる。「我々が企業を買収しようと思う際には、高成長企業か、差別化技術を持っているか、優秀な人材が揃っており、我々と親和性が高いか、といったことを基準に判断している」(同)とのことで、従来の分析機器の周辺を補完したり、より機能強化につながる企業のほか、隣接する市場への橋頭堡を確保する役割などを担ってきた。
同社はこうした企業買収のほかに、今後3年間で総額10億ドルの研究開発投資を行っていく計画としている。「各ビジネスグループにおいて、高い成長を遂げる可能性のあるところに重点的に配分していく」(同)としており、より高性能な装置の開発のほか、次世代シーケンサ(NGS)のような新しい製品開発、カスタマエクスペリエンス(CX)の向上に向けたデジタル関連への投資なども行っていくとする。
「デジタルな環境に触れない日はないのが現在の社会。企業も我々に同じような体験を求めるようになってきている。そのニーズに応えるために、我々も、顧客とのやり取りをデジタルで円滑化したり、ラボの運営支援などにつなげたり、従業員の働き方改革につながるようなソリューションを取り入れたり、といったことを考えている」(同)とのことで、今後も、こうした技術の進展に併せた成長戦略を掲げていくことで、さらなるビジネスの拡大を図っていきたいと同氏は語る。なお、同氏は、「グローバルでも日本でもまだまだ成長の余地がある。特に日本は、研究分野のレベルが高く、いろいろなビジネスチャンスがある国。そうした重要な地域だからこそ、これからもこの国にとって、魅力的な企業であり続けるよう、我々も努力をしていくつもりだ」と日本市場についての重要性を再三にわたって強調しており、引き続き、さまざまな方面から注力していくとしていた。